小説 川崎サイト

 

どてら

川崎ゆきお



 自由が一番不自由なのかもしれない。
 自由に何を選んでもよいのだが、何でもよいわけがない。
 本人がよくても周囲が許さないことがある。本人はそれを知っているため、決して自由ではない。
 その自由を選ぶことで、不自由を味わうのだ。
「自由はね、概念なんだよ」
「概念?」
「実体がないのさ」
「僕は自由な発想をやりたいのだが」
「え、今まで不自由な発想だったの」
「既成の概念に囚われない発想だよ」
「それがそもそも既成の概念じゃないの」
「え、どういうこと?」
「既成の概念に囚われないことが既成概念だよ」
「そう、来ますか」
「自由な服装でもかまわないからといって、何を着てもかまわないわけじゃないでしょ」
「それは自由でしょ」
「自由なはずなのに、似たような服しか、みんな着ていないでしょ」
「バリエーションは多いですよ」
「それは許される範囲内だ。流行が去ったものではセンスを疑われ、恥ずかしいでしょ。もう、ここで、自由なんてないんだよ」
「僕の場合、まだ誰も考えついていないアイデアで…」
「だから、それも種類が多いようでも、同じようなものなんだよ」
「そうかなあ」
「変な服装という一ジャンルで、括れる」
「それは大まかすぎますよ」
「君の発想は、ファッション性を重視してるだろ」
「当然そうなるでしょ」
「だから、不自由なんだよ」
「じゃあ、君はどう考えてるの? どんな服装なら自由なの?」
「冬場はどてらを着て外出するとかだ」
「どてら?」
「丹前だよ」
「そんな温泉場の観光客じゃあるまいし」
「それで通勤する自由はないだろ」
「それは圏外だよ」
「ほら、圏内でないと通じないところが不自由だと言ってるんだ」
「じゃ、君はそれで通勤するの」
「しませんよ」
「どうして?」
「自由なんてないからだよ」
「もし、やれば?」
「明日から出勤しなくてもよくなるさ」
 
   了



2007年12月12日

小説 川崎サイト