小説 川崎サイト

 

リンゴの赤さ

 

「目の前にリンゴがある」
「ありませんが」
「あるとする。リンゴを見たことがあるかね」
「ありますよ。食べたことも当然ありますが、あまりリンゴなど意識したことはありませんが」
「最後に見たリンゴはいつだったかね」
「さあ、スーパーで見た覚えはあります。これ、買っても食べきれないなあと思いましたよ。それで小さなリンゴを探したのですが、ありませんでした」
「その時のリンゴの様子はどうでした」
「様子」
「姿形、色です」
「普通でしょ。よく見かける形で、よく見かける色です」
「赤ですね」
「はい一寸まだ青いところが残っていたようですが、これは買うとき、気になりますので、見るようにしていますが、それほど真剣には見ていませんがね。青いとまだ早いとか程度です。青いリンゴはすっぱいと言いますから」
「そのリンゴの赤さ、人に伝えられるかね」
「はい、伝えられます。赤いリンゴと。それと大きさも」
「どういう赤さでした」
「赤は赤ですよ。一般的な。でも照明の関係で、違うところで見ると、違った色に見えるかもしれませんが、そこまで観察していませんよ。特徴のない赤です」
「人により、リンゴの赤さにも違いが出る」
「視力の問題もあるでしょうしね。それと見る角度とかも」
「同じ赤さを同じようには感じていない」
「じゃ、青いと」
「そこまでいかないが」
「でも最後にスーパーで見たリンゴ、一寸青いのが入ってましたから、これ、青いリンゴと言ってしまうかもしれませんが。全体は赤いので、やはり赤いリンゴですよ。これで伝わるでしょ」
「色の微妙ところは人により見え方が違うと言うよりも感じ方が違う。人がどう見ているのかはその人にしか分からない」
「でも色見本などを参考にすれば分かるでしょ。どの赤さ具合でしたかと」
「まあ、そうだがね」
「しかし、そこまで正確に知る必要はないでしょ。リンゴ関係者じゃない限り。そういう人の方がより詳しく見ているでしょうが」
「感性はその人にしか分からない。だから、リンゴの印象もそうだ」
「それよりも、小さい目のリンゴを買ってきて細かく切り、ミキサーで潰せば、何とか食べきれると思います。大きいと、ミキサーに入らないのですよ。水も入れないといけませんからね。色がどうのってのは関係ないですよ。磨り潰してしまえば、でも赤いのは何となく付いてきますがね」
「それで」
「そこが青リンゴとの違いです。でもすっぱいので、蜂蜜とか入れた方がいいですね。なければ砂糖を」
「ジュースにしないのかね」
「ジューサーは持ってません。それに使ったあとの掃除が大変です。やはり摺った方がいい。具がドロッと残る程度の」
「そうか、ジューサーよりもミキサーか」
「ブレンダーです」
「簡単かね」
「はい、ジューサーよりも」
「わしもそれにする」
 
   了



 

 
 


2023年7月23日

 

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