小説 川崎サイト

 

宝探し

 

 夏になると宝探しに行こうと誘う友人がいる。しかし、今年は言ってこない。正気に戻ったのだろう。
 または社会人をやっているのかもしれない。普通の仕事に出ているのなら、そんな時間はないだろう。
 木下はその友人の竹中に何かあったのではないかと心配になる。毎年誘いに来ているのだから。
 しかし、何かあったとは、まともな人間になったことになる。これは悪いことではなく、まともなことだ。異常ではない。
 だが、気になるので、竹中が住んでいるアパートを訪ねた。暑い最中、ご苦労なことだ。まるで宝探しを催促しに行くようなもの。
 行かなければ宝探しの話はない。誘われても行ったことがないので、同じこと。どちらにしても宝探しとは竹中は無縁。そんな悠長なことなど興味はないが、宝探しには興味はある。
 行かないが、誘って欲しい。今年は何処へ探しに行くのか、そして今年のネタも知りたい。それを聞くだけでもいい。
 日影のない道。電線が路面の真ん中を走っている。これは上の電線の影だ。ないよりはましなので、竹中は頭が影の線に掛かるようにして歩いている。まるで電車だ。昔走っていた市電とか、トロリーバスを思い出す。上に電線がないと動力を得られない。
 そして電線の下をしばらく行ったところで、右へ入る。道の真ん中を歩けたのは車が入ってこないため。それに人もいない。ゴーストタウン。真夏の炎天下、たまにあるシーンとしたシーン。
 右に入ると、舗装がなくなり、デコボコ道。所々に夏草が伸びている。体の半分ほどもある。私道だろう。
 アパートはその未舗装路の横にある。アパート込みで、このへんは土地持ちの大地主がいると聞いていた。
 しかし、木造のアパートなので、もう時代的には終わっており、倒壊しないのが不思議なほど。大家は建て替える気はないらしい。アパートに残っているのは竹中だけではないようだが。
 竹中の部屋は二階にある。風呂屋の下駄箱のようなのが玄関にあり、そこで靴を脱ぐ。廊下は土足厳禁。見れば分かる。
 階段はしっかりとしており、角は丸くなっており、滑りやすいが、滑り心地がいい。
 そして、真ん中あたりのドアをノックする。もう枯れたような紙に竹中と書かれている。名刺ぐらいの紙だ。それを押しピンで留めているのだが、錆びており、紙に茶色いのが流れている。
 ノックしても反応はない。やはり真人間になり、会社へ行っているのだろう。と思っていると、ハイと、声が聞こえ、すぐにドアが開く。
 竹中がそこにいた。
 今年は誘いに来なかったことを木下は竹中に聞くが、そうだったかととぼけられた。
 何か事情があったのかと問うと、ああ、あの冗談はもうやめたと言う。
 まさに真人間になり、社会人になるつもりかと問い詰めると。安心してくれ、その気はないと、高笑いした。
 木下は安心し、竹中が出してきた冷たい麦茶を飲んだ。
 ガラスコップが少し汚れていたが、気にしなかった。
 
   了


 
 


2023年7月27日

 

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