小説 川崎サイト

 

三沢の顔

 

 三沢の調子が最近おかしい。竹中はそれを感じていたのだが、原因が分からない。おかしいというのはいつもの三沢と違うため。
 ただ、それはいつも竹中に見せている顔で、表情であり、態度や喋り方に過ぎないような気もする。
 三沢が竹中に対する態度のようなもの。だから竹中以外では、また違うのかもしれない。つまり対竹中用の態度なのだ。
 しかし、何人かで話すことがあり、そのときの三沢はいつもとは少しだけ違う。そのいつもとは二人だけで話すときだ。また話さないまでも軽く会釈するときも。
 だが、三沢を交えて何人かで合っているときも、やはり三沢の様子が違う。これは何かいいことがあったときの顔に近い。そういう顔は滅多に見せないのだが、たまに見せる。その顔が初期値になっている。
 他の人達も三沢の変化に気付いているはず。竹中だけがそう感じているわけではない。
「何か良いことがあったのかい、三沢君」
「いや、別に」
 竹中が思いきって聞くと、そう答えたが、嬉しそうだ。やはりいいことがあったに違いない。しかし、そういうのは一瞬で、長く続くものではないので、継続的に続くようなかなりいいことかもしれない。
「最近明るいねえ」
「そうかな」
 三沢は笑いながらこたえる。これも珍しい。だから、やはり怪しい。どんなことがあったのかと竹中は想像するのだが、三沢はなかなか口を割らない。言い出さない。だから、言えないようなことに違いない。
 これは確かにある。竹中にもあった。流石にそれは人には言えないだろうとか、言えば態度が変わるとか、キャラが変わってしまいそうになるとかで、言いたくても言えないことがある。また人には話したくないと最初から決まっていることもある。
 だから、それに類することがあったに違いない。
 それは何かは分からないが、三沢はいつもとは違う様子になっていることを本人は自覚しているはず。気付かないわけがないと思うのだが、言われるまで気付かない人もいる。
 三沢にはそんな無頓着なところはないはずで、結構神経質なところがあるし、自分の態度を気にするタイプ。だから、最近の変わり様を三沢自身も分かっているはず。
 すると、やはり聞いて欲しいのだ。
「宝くじにでも当たったのかい」
「いや、そんな良い事はない」
 そのあとも竹中は色々なパターンでの良い事を上げたが、どれにも当てはまらない。あまりしつこく竹中が聞くので、三沢はついに白状した。自白だ。
 それによると、顔の表情を変える訓練らしい。表情を変えると、気持ちまで変わると聞いて、試しているらしい。だから、中は空っぽで、良い事が詰まっているわけではなかったようだ。
 しかし、三沢がそんな芸当をするのは意外で、竹中は三沢のある一面を覗いてしまった。
 
   了

  


 
 


2023年8月10日

 

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