小説 川崎サイト

 

階段怪談

川崎ゆきお



 時として、不可解な謎に遭遇することがある。
 理解しがたい出来事だ。
「どう考えても分からないんだ」
「それは君の理解能力が低いからじゃないの?」
「どう理解すればいいのかが想像できないんだ」
「一体何があったんだ?」
「まあ、怪談なんだけど」
「忙しい時に、そんな呑気な話かい」
「地下への階段があるんだ」
「出るのかい?」
「幽霊は出ない」
「じゃ、何が出るんだ?」
「地下一階に出る」
「じゃ、話はそこまでだな。どこが怪談なんだよ」
「その地下一階というのが…」
「不可解な場所なのか?」
「食堂と売店がある」
「それが不可解なのか?」
「普通だ。ノーマルだ」
「で、怪談は?」
「階段がおかしいんだ」
「階段の怪談か?」
「そうだ」
「どうおかしいんだ?」
「階段の踊り場が二つある」
「はて?」
「食堂のある場所は地下二階なんだ」
「ほう。いいじゃないか」
「本当は地下一階を飛ばして地下二階なんだ。その距離、深さがある」
「食堂の天井の高さは?」
「普通だ」
「その階は食堂と売店だけかい?」
「そうだ」
「建物の大きさは?」
「大きい」
「じゃ、地下一階には食堂や売店以外の部屋があるんだろ」
「そのはずだ」
「何の建物だ?」
「五階建ての大きな病院だ」
「すると、本当の地下一階は、完全に封鎖されているんだな。それと、食堂のある階のほとんども閉じられている」
「そういうことになる。不可解だろ?」
「想像すれば分かるじゃないか。処置室じゃないのか」
「そうか」
「怪談でも不可解な謎でもないよ」
「でも、どうして、あんな深い階段を降りたのに、まだ地階一階なんだ」
「エレベーターは?」
「階段の横にあるけど、本当の地下一階は通過する」
 
   了




2007年12月15日

小説 川崎サイト