幻獣図鑑
川崎ゆきお
「不思議な動物を想像したことはありますか?」
「ないねえ」
「存在しない架空の動物なんですよ」
「あ、そう」
「モンスターとは少し違うんですよね。何となくいそうでいない動物なんです」
「それが何か?」
「想像する楽しさですよ」
「あ、そう」
「幻獣って言うんです」
「そうなの」
「幻の動物でしてね。幻獣図鑑もあるんですよ。ご覧になりました?」
「動物図鑑も見た記憶はないね」
「家とか学校になかったですか? 動物図鑑」
「あったかもしれないし、見たかもしれないが、忘れてしまったよ。で、それが何か?」
「愉快だとは思いませんかね」
「動物図鑑かね?」
「いえ、幻獣図鑑です」
「だから、動物図鑑にも興味がないんだよ」
「動物図鑑よりは面白いですから」
「君が面白がるのはいいよ。だけど、面白いとは思えないんだ」
「どうしてですか? 妙な動物を見たくないのですか?」
「だからね。ノーマルな動物にも興味はないんだよ」
「ご覧になれば、きっと楽しいですよ」
「君の場合はね」
「想像の世界を楽しむとかはあるでしょ」
「想像する楽しみはあるがね」
「じゃ、幻獣は、想像の産物で、大傑作なんですよ。普通の図鑑のように、さも、存在するかのように載ってるんですよ」
「存在しないものを想像して、どうなるのかね。存在するかもしれないから想像するんだろ」
「もっと純粋に、想像を想像として楽しむのですよ」
「あ、そう」
「ご覧になりたいでしょ」
「そんな面倒なもの、見る気はないね」
「こんな愉快なもの、見ないなんてもったいないですよ」
男は幻獣図鑑を取り出し、幻獣を見せた。
「どうです、凄いでしょ」
「別に」
「ど、どうしてですか?」
「ありもしないものを見てもつまらんよ」
「だから、楽しいのですよ」
「あ、そう」
了
2007年12月16日