小説 川崎サイト

 

閻魔大王

 

 地獄で閻魔大王のもとで、裁判を受けるので新造は畏まっていた。無作法でもあれば、判定に関わる。印象が悪いと。
 閻魔大王は新造の過去を見ている。しかしダイジェスト版で荒い。それに興味深いところだけを見ている。
 だから全生涯ではない。だが、閻魔大王の前に今いるのだから、これも生涯の中の一つだろうか。まだ生涯が続いているようなもの。
 だから、生きていた頃の前世だろう。こちらは何処の世界かは分からないがおそらくはあの世。
 しかし、いきなり閻魔大王がいる。そもそもここが地獄なのだ。だから既に地獄に落ちているのかもしれない。
 だから、地獄の中の何処へ行くかの裁判なのだ。
 いや、待てよ。これは入口で、まだ地獄ではなく、極楽との分岐点かもしれない。しかし地獄寄りの風景だ。
 極楽に閻魔大王がいるとは聞いたことがない。閻魔大王は地獄。しかし、別説を新造は知っている。極楽にいるのは閻魔大王ではなく、地蔵菩薩だと。これは同じ人らしい。そういえばここに来るまで地蔵さんに案内された。すぐに消えたが。
 閻魔大王は新造の過去を見ていたが、悪いことばかりしている。悪行ばかりだ。善行は僅か。しかし、その善行が光った。少ないためだろう。
 トータルする前から、地獄行きと決まっている。ところが閻魔さんは、ヘビを助けた善行が気に入った。浦島太郎の亀のようなもの。
 その前に来た人は善行の人だったが、いくつか悪いこともしている。それが目立った。新造とは逆。それで地獄に落ちている。
 しかし、新造は極楽行きと決まった。
 極楽への通り道があり、先を歩いている人に新造は追いつく。
「わしなど、地獄行きが当然なのに、おかしなことになったわい」
「あの閻魔さんは癖が強すぎるとか聞きますぞ」
「え、じゃ閻魔大王は他にもいるのですか」
「閻魔さんは役職名。何人もいる」
「でも、大王でしょ。一人だと思いますが」
「大王とは呼び方でな。王様のことじゃないそうな」
「あなたは善行を積んでこちらへ回されたのでしょ」新造が聞く。
「半々で、ドローだったらしい」
「判定が難しかったのですな」
「それで、面倒なので、極楽へ振られた」
「よかったですなあ」
「基準が曖昧でな。私が善行と思っていることが、悪行になっていたり、悪行だと思ったことが善行だったりと、判定が滅茶苦茶なんじゃ」
「ほんにメチャクチャでございますなあ」
 
   了

 


 
 


2023年9月8日

 

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