小説 川崎サイト

 

今日の用事

 

 朝、起きたとき、生野は今日は何をする日だったのかを思い出そうとした。
 しかし、何もないようだ。何もなくはないが、今日やらないといけない用事は特にない。特にはないが、毎日やらないといけない用事はある。
 それに加えて、何か違うことがあるような気がしたのだが、忘れてしまった。きっと暇なときにやろうと決めていたことなのかもしれない。
 そういうのは結構あるのだが、そのままになっていたり、うやむやなまま消えている。もうしなくても良くなったのだろう。
 しかし、確かに今日、やることがあったような気がする。何処かにメモしたわけではないが、しなくても覚えているはず。分かっていること。
 しかし、本当にそんなことがあったのかどうかも疑わしい。すぐに思い出せないのだから、きっと何もなかったのだろう。それでも何か気になる。何かあるはずだと。これは気のせいにしてもいいのだが、やはり気掛かりだ。
 もし、それを今日やらないと大変なことになったりする。
 だが、うっかりしていて忘れたと言うことも結構ある。あとで思いだして「しまった」となるのだが、これはそのことよりも、忘れていたことで「しまった」となる。大した用事ではなくても、忘れているというのが「しまった」なのだ。
 しかし、やはり今日やることがあるような気がする。そこで生野はさらに深掘りすると、これは今日明日の問題ではなく、もっと先のことに関してで、そろそろそれをやり始めた方がいいという件ではないかと言うこと。目先ではない。ずっと先々だ。
 方針のようなもので、それは何かをやるとかではなく、やり方の問題のような気がする。そんなことを昨夜考えていたのを思い出す。
 だから今日すぐにでもやらないといけない用件ではない。違うところを探していた。
 それで、用事を忘れて困るような目先の話ではないので、ほっとした。
 しかし、昨夜決めたこと。これは方向性や態度とかの話なので、やることなすこと全てに当てはまるので、結構忙しい。それに気を配りながら、コントロールするのだから、不自然と言えば不自然。
 たとえば冷静沈着に心がけていても、驚くべきことがあれば驚くだろう。驚いたあとで、驚きすぎたので、もう少し静かめに驚くべきだったと思う程度。
 ここはやはり素直に驚いた方がいい。驚きの感情を控えることもできるが、それは演技をしているようなもの。何処かわざとらしい。
 それを考えると生野は昨夜思い付いた明日から始めるその方法がきな臭く思え、自由型に変えた。これはいつもの生田の態度や姿勢に戻しただけ。
 しかし、そんな定点があるわけではなく、自然とそうなった癖のようなものだろう。
 目先を変えるのはいいのだが、すぐに変えられるので、これは常用できないだろう。
 それで生野は、その作戦をやめたので、ほっとした。
 生野は何処へ行くのだろう。
 
   了

 



 


2023年9月24日

 

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