小説 川崎サイト

 

予見者

 

「予見者?」
「はい」
「予言者の間違いではないか」
「見えるようです」
「先のことがか」
「はい」
「どの程度の」
「一寸だけとか」
「その一寸が見えるのか」
「はい、一寸見えるらしいのです」
「見るだけか」
「はい、見ているだけです」
「どれぐらい先のことだ」
「それは分からないようです」
「見たいものが見えないのか」
「はい、一方的に見るだけです」
「どの間だ」
「間?」
「長さだ。見えている長さ」
「瞬間だそうです」
「それではよく見えないだろ」
「サッとですが、分かるようです」
「それを覚えているのか」
「はい、すぐに忘れるようですが、そのときは良く見えているとか」
「しかし、サッと見えるだけ、一瞬では細かいところまでは見えんだろ」
「だから、印象です」
「たとえばわしの場合はどうだ」
「予見者に頼むのですか」
「いや、そうではないが、もし見てもらったとする」
「はい。年寄りになったわしがいたとする」
「まだ、お若いですが」
「時期は選べんようだが、年寄りのわしが見えたとする。その予見者がな」
「はい」
「すると、その年までわしは生きておることになる」
「そうですねえ」
「それだけでも十分かもしれんなあ」
「見てもらいますか」
「しかし、それがわしだろうか。違う者を見たとも考えられる」
「ああ、そこまでは何とも言えません」
「一瞬ではなあ。先々の事柄が知りたい」
「そうなると、予言者です」
「言葉ではっきりと言われた方が確か」
「しかし、世の予言は曖昧です」
「それなら予見者のほうがまだましか」
「頼みたいのですか」
「わしはそのようなものは信じておらん。だから頼まん」
「それはよろしいかと」
「しかし、先々がどうして見えるのかのう」
「見えるから仕方がないと言うことです」
「その予見者の言葉か」
「はい、見たくもないのに、目の前にいる人の将来が見えるとか」
「一刻先も将来、三十年先も将来。どの将来かが分からぬが、昔のことは見えぬのか」
「見えないようです」
「じゃ、先だけか」
「どういたします」
「わしは頼まん」
「そうではなく、処置です」
「人を惑わすということでか」
「はい」
「しかし訴えはないのだろ」
「ありません」
「では、捨て置け」
「はい、そのように取り計らいます」
 
   了

 


 


2023年9月26日

 

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