小説 川崎サイト

 

感性度

 

「一つか二つほど前の方がよかったかもしれませんねえ」
「二つほど前は一寸古いのでは」
「三つ前でもまだいけます。以前はそれを使っていたのですからね、最新のものとして」
「当時は新しかった」
「そうです」
「じゃ、今のは駄目ですか」
「余計なものが増えましたねえ。使いもしないようなものが。そして基本的なところは上がりましたが、逆に落ちたところもあります。痛し痒しです」
「痛くて痒い。痛さが痒さになると、治り掛かっているとか」
「そう言う話ではありません」
「失礼しました」
「二つ前、これは改良の余地があるので、一つ前がよろしい。三つ前になるとこれは完成されたものでしょう。今のものより優れている箇所があります。劣っているところもありますが、致命傷ではありません」
「一つ前は分かります。この前まであったのですが、しかし、二つ前になると忘れていたりします。三つ前になると、覚えていても懐かしいだけかも」
「いや、ものにより、一つ前が完成度が高く、今のは、劣るとかもあります」
「それは何でしょう」
「感性です。数値化できない」
「感性。だから感性が良いのが完成度が高いと」
「ここなんです」
「よく分かりませんが、バランスの問題ですか」
「いや、今の方がバランスが良い。そうではなく、方向性の問題でしょうねえ」
「じゃ、感性とは一寸違いますね」
「方向が変わったのでしょ。方針とかが。それで二つ前三つ前のもので向かっていた方角とは違っている。一つ前もそうです。そこから変わったのでしょうねえ」
「一つ前、二つ前って、全てのことに当てはまるわけではないのでしたね」
「そうです。まあ、そんな順序と言うことでしょうか」
「でも、今の時代に合わないのではないのですか。二つ前とか三つ前とかなら、もう昔の遺物のような」
「そうとも言い切れません。三つ前でも十分機能を果たしていた。そのまま今の時代でもいけたのですよ。だから、その後に出てきたものは余計なものだったとも言えます。今風な仮面を付けていますが。そして仮面だけなら良いのですが、中味も変えてしまった。これは別物ですよ」
「何となく分かります。父親の話よりもお爺さんの話のほうが落ち着きますし、曾お爺さんならもっと落ち着くような」
「まあ、それは枯れていくからでしょうが、昔の人ほどしっかりしていた、というのはあるようですね」
「それだけのことですか」
「問題は感性です。数値化できません。だから説明も難しいのです。それに良し悪しは人の感性に依存するので、感じてみなければ分かりません。個人差がありますし」
「新しいものの方がいいような気がするのですが」
「よく見えても、中味は昔の方がよかったというのはあるでしょ」
「ああ、そういうことですか」
「分かりましたか」
「はい、曖昧ながら」
 
   了



 


 


2023年9月28日

 

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