小説 川崎サイト

 

クリスマスイブ

川崎ゆきお



 夜道を一人の男が歩いている。
 特に何ということもない情景だが、クリスマスイブだった。
 男は最前まで繁華街でクリスマスの巷にいた。
 個人が集まる食事会のようなものだ。
 男は友人夫婦二組と過ごした。
 食事会の後、お茶に誘われたが、断った。
 四人が座れる店はすぐに見つかるが、五人となると少なくなる。
 食事会のテーブルも四人がけだった。そこに椅子を一つ増やして座った。
 幸い、丸テーブルだったので、適当に座れた。
 男は後悔した。
 誘われた時、断るべきだった。
 また、友人たちも断るものだと思っていたに違いない。
 男も最初は断るつもりだったが、人数が分からなかった。
 まさか、夫婦で来ているとは思わなかったのだ。
 男はクリスマスケーキを一人で食べるのを年中行事としていた。
 あの円形の大きなケーキを夕食のご飯とする日だった。
 しかし、その行事への拘りはない。たまには賑やかな場所でイブを楽しみたくなった。
 食事会では鳥が出た。大きな鳥だが、首がない。
 男は鳥が嫌いだった。鳥のイボイボを見ただけで、鳥肌がたった。
 デザートでショートケーキが出たが、量が少なく、一口で口の中で溶けてしまった。
 どう見ても男は浮いている。
 二人の友人は、気を使い、男に話しを振るが、それは男に喋らせるだけのことで、男に口を開かせるだけの配慮に過ぎない。
 男は自分の位置が、この場にふさわしくないことを承知していた。
 それが分かっているなら、誘われても断るべきだったのだ。
 食事会が終わり、次の店へ移動する時、男は、二組の夫婦の後をついていった。
 早く切り離して欲しかったが、きっかけがない。
 友人たちは当然誘った。
 男はここで意地悪るに走った。
 本当は二組で行きたいと、思っているのに、まだ誘う感じで、誘う側に意地の悪さを感じたからだ。
 男はついていったのだ。
 しかし、それ以上嫌な夜にしたくなかったので、次の店の前で姿を消した。
 人波にのまれ、見失ったふりをした。
 しかし、ケータイは鳴らなかった。
 男は夜道を歩いている。イブのやり直しのため、コンビニで大きなケーキを買おうとしていた。
 
   了


2007年12月22日

小説 川崎サイト