小説 川崎サイト

 

お化けと派閥

川崎ゆきお



「最近はどうですか?」
「ああー珍しいねえ。そんなことを聞かれるのは」
「近くまで来たので、寄りました」
「あの会社、まだ元気かい」
「相変わらずですが、何とかやっています」
「退職金が出る間に辞めてよかったよ」
「まだまだ、大丈夫ですよ」
「時代から取り残されとるからなあ。長くはないよ」
「それで、最近どうですか?」
「特にないよ。退社すると、話のネタが小さくなる」
「そうなんですか?」
「近所の話をやってもつまらんだろ」
「いえいえ」
「まあ、こちらが話す気にもなれんよ」
「近所で、どんなことがあったのですか?」
「それがね。出るって言うんだ」
「何がですか?」
「お化けだよ」
「それは、大きな話ですよ」
「噂だよ」
「凄いネタじゃないですか」
「そうかね」
「はい」
「じゃ、話しても馬鹿にしないよね」
「当然ですよ」
「君は、話し相手になってやろうとボランティアの気持ちで聞いていないか?」
「そんなことはありません。会社ではお世話になりましたし、これからも助言がいただけると思っています」
「もう、助言するような値打ちはないさ」
「まだまだ、僕らが知らない人脈上の話とかがあります」
「まあ、それは古い話さ。そこの登場人物はほとんど退社しているだろ」
「そうじゃないのです。院政です」
「院政?」
「引退してからも、まだかかわっているんですよ」
「私と同じで、何の力もないと思うが」
「引退役員がまだ派閥に影響力があるのですよ」
「そうなのか、私らのころはそんな上役はいなかったがな。孫と遊ぶ隠居さんがほとんどだ。私だってそうだよ。もう会社との縁はない」
「いろいろ教えていただきたいと思います」
「まあ、いいが。私の知ってることが役立つのかね」
「はい。僕としても、どの派閥に所属するかを決めないといけませんので参考にしたいのです」
「それより、お化けが出る話は、しなくてもいいのか」
「あ、はい」
 
   了


2007年12月23日

小説 川崎サイト