小説 川崎サイト

 

謎のまま

 

「急にまた寒くなりましたなあ」
「秋が深まったのでしょ」
「今日などはすでに冬ですぞ」
「まだ、紅葉も始まりだしたばかりなのにね」
「木枯らしも吹いていません」
「一号とか二号ですね。一号は派手ですが、二号になるともう話題にならない」
「同じようなものですからね」
「しかし、この寒さ、すぐに収まるでしょう」
「この前までと違い十度ほど低い。これは体調に来ますよ」
「逆に私は背筋がシャキッとします。寒さに身構え、立ち向かう。その姿勢もいいものですよ。ずっとなら疲れますし、一寸気を抜けば、寒さが倍ほど来ますが」
「じゃ、普通に寒がっておればいいのですな。倍返しもないし」
「まあ、一寸寒いだけなので、大した問題じゃありませんが、体調を崩すと問題ですなあ。調子が悪くなるとか、持病が出るとか」
「まあ、毎年のことですから、慣れたことでしょ」
「そうですなあ。寝込むほどじゃない」
「しかし、ここへ出てこられるだけでもいいんじゃないのですか。なんやかんやといいながらも元気なんです」
「元気じゃないときもありますが、まあ、そういうことですねえ」
「でも、いつも思うのは、ここはどこなんでしょう」
「それを言っちゃ駄目だ。ここは夢の中だと思えばいい」
「じゃ、私もあなたも寝ているわけですか。じゃ、時間的には夜中だ」
「そうかもしれません」
「でも、どこなんでしょうねえ、ここは」
「毎日来ているので、気にはしていないのですが、そう言われれば、おかしな場所です」
「そうです。椅子もあるしテーブルもある。屋外ではなく屋内だ」
「これで特定できるでしょ」
「時代劇の世界じゃない。現代劇だ」
「そうですなあ。あなたの服装でも分かります。私の服もそうですが、こんな服、持っていたのでしょうかね」
「それは私も同じです。見覚えのない服です。いつもここでは服など見ていないので、こうして改めて見ると不思議です」
「さっきトイレへ寄ったのですがね。鏡がありました」
「写っていなかったと」
「写っていましたが、これが私の顔なのかと驚きました」
「写っていないだけ、ましでしょ」
「そうですねえ」
「しかし、ここはどこなんでしょう」
「きっと夢の世界ですよ」
「二人とも寝ていて同じ夢を見ているわけですか」
「いや、どちらかの夢でしょ」
「どちらですか。私ですか、あなたですか」
「それは分かりませんが、私だと思っている方の夢でしょうねえ」
「ああ、なるほど。これで氷解しました」
「根本的なところは謎のままですよ」
「そうですなあ」
 
   了




2023年11月16日

 

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