小説 川崎サイト

 

足音の怪

 

 誰も近くに人がいない歩道。
 後ろから足音のようなものが聞こえる。吉田は聞き耳を立てていたわけではない。
 ひと気がないことを確認しないといけないようなことをしているわけではない。だから、普通にそういう音、気配のようなものを受ける。風が吹けば風を感じるようなもの。
 歩道に落ち葉。サクサクとそれを踏む音だろうか。吉田の足音を聞いているのかもしれない。その足音、足下から聞こえるはずだが、それにしてはもう少し後方から。
 振り向くと当然そんな人はいない。歩道の奥にも人影が見えないが、横切る自転車や車が遠目で見える程度。だから、後方は無人。
 前方は信号待ちをしている人影が見える。かなり距離があるので、先ほどの音とは無関係だろう。
 歩道の右に車道がある。車はたまに通る程度。その車からの音かもしれない。
 そう思いながら今度聞こえたときは車道を見ることにする。
 そして車が通過した。足音のような音は聞こえない。
 そしてしばらくすると、カサカサッとまた音がする。すぐに後ろを見たが車も人もいない。同じ音だ。左側は家が並んでいる。そこからの音だとしても、カサカサ音をすべての家から出ているわけではない。そんな音ではない。
 落ち葉を踏む音で、しかもすぐ後ろ側から。
 しかし、カサカサという音とは少し違う。だが、カサカサが一番近い。それは足音だと思うので、カサカサと聞こえるのだろう。
 コートの裾がズボンとかに触れているのかもしれない。つばのある帽子の端がフードや襟に触れて、こすれたような音がすることもある。そのときもカサカサだが、これは後頭部から聞こえるので、かなり近い。
 吉田が聞いている音はもう少し後ろで下の方から。だから後ろから来る人の足音が妥当なのだ。
 しかし、何度振り返ってもそんな人はいないない。当然犬が追いかけてきているわけではない。歩道のタイルと落ち葉が見えるだけ。
 何もないし、誰も後ろにいないのだから、もう仕方がない。きっと何かからの音だろうが、内面からの音も疑うが、それなら耳を塞いでも聞こえてくるだろう。実際にそれもやってみたが、幻聴ではない。
 また鼓膜周辺にゴミでもついているのかと、そこまで考えたが、もう十分だろう。考察のしすぎだ。
 そして、先ほど遠目で見ていた信号まで来て、道を渡ったあたりから、もうあの音は聞こえなくなった。
 そして吉田の後方から人が近づいてくるのが分かった。追い抜く気だ。歩道の落ち葉は先ほどと同じ状態。ここで確かめられる。
 後ろの人はサッと追い抜いた。近づいてくるとき、足音も気配もしなかった。
 それに吉田の横を追い越したのではなく、真後ろから来てそのまま吉田のすぐ前に背中を見せていた。
 
   了



2023年11月18日

 

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