小説 川崎サイト

 

町の明り

川崎ゆきお



 狭い敷地だが、樹木が密生している。
 二階建ての洋館だが、とんがり屋根の膨らみの中に三階部分があるのだろう。
 その屋根部屋には常に明かりが灯っている。
 暖色系のカーテンのためか、窓が薄いミカン色となり、四角い輪郭を浮かび上がらせている。
 小さな分譲住宅で、横へは行けないので上へ行く感じでの、よく見かける三階建てなのだが、その洋館は石組みでできており、本物の洋館だ。
 だが、周囲の農地に、似たような上へ伸びる住宅が乱立したため、この洋館も目立たない。
 横へ拡張してもよいほどの敷地があるのだが、洋館を隠すような感じで樹木が生い茂っている。
「昔からあるなあ」
 近くの中学生が答える。
 問いかけたのは自転車に乗った中年男だ。
「夜中にここを通るんだけど、いつも明かりがついてるだろ」
「そうだったかな」
「誰がいるのだろ?」
「受験生じゃない」
「だけど、昔から明かりがあるんだろ」
「ああ、そうか」
「誰が住んでいるのか、知らないかい」
 中学生はピンときたのか、中年男を不審げに見る。
「気になっただけだよ。君は気にならないか?」
「夜中でも明かりがついてる窓なんて、いくらでもあるよ」
「でも、昔からなんだろ?」
「そうだなあ」
「いつ頃から?」
「小学校のころ、見た覚えがある」
「何年生?」
「一年生」
「今は中学生なんだから、長いじゃないか」
「ああ」
「じゃ、近所なんだし、どんな人が住んでいるのか、知ってるだろ」
「知らないよ」
「この辺じゃ珍しい古い洋館だろ。近所で噂になっていると思うけど」
「僕は知らない」
「毎晩、ずっと明るい洋館の屋根部屋って、怪しいと思わない?」
「別に」
 中学生は、立ち去ろうとする。
「あの洋館の正体を探ろうとは思わないのかい」
 中学生は遠ざかる。
「おーい」
 中年男が呼び止める。
「電気付け忘れているんじゃない」
「そうか」
 中年男は、まだ自転車から明かりを見続けている。
 
   了


2007年12月26日

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