小説 川崎サイト

 

ハプニング

 

 同じ道筋を毎日散歩している山田。
 散歩なので道を散らしてもいい。いくらでも道筋を変えられる。しかし山田はいつも決まったコース。道順を変えない。
 変える必要がないので、同じ所ばかり通っている。それは散策や探索ではないため。一寸外を歩きたいだけ。
 歩いているだけでもう十分。そして慣れた景色なので、安定している。逆に刺激が少ない方がいい。四季折々それなりの変化があるし、日々の天気で景色も変わる。
 高くそびえる樹木も青空の青地で冴える。その程度の変化でも良いと思っているのだが、たまには全く違う風景も見たいと思うことがある。切に望んでいないので何となく。
 同じものばかり見ていると印象に残りにくい。まあ数日前に食べた夕食のおかずも忘れるのだから散歩も似たようなもの。ただ、少しは目先を変えてみたいとは思う。
 だが山田は実行しない。邪魔くさいのだ。そういう積極的なことが。散歩なのでゆっくりしたい。余計な行動をしたくないし、そういう挑み方は合わないのだろう。散歩なので。
 しかし、たまには目先は変えたいというのはなくはない。山田から仕掛けることはないだけ。一寸決心がいる。何か違うことをやるためだ。
 しかし、その日、いつものコースが途中で切れた。何かの工事中で通れない。ただ車両は通れないが人は通れるようだが、狭い。
 それに整理員もいるし、面倒なので、すぐ横にある枝道に入った。強制的ではない。通れるのだが、通りたくなかったのだ。
 これがきっかけ、トリガー。山田から起こしたアクションではない。工事中が導いた変更。強制ではないが、そういう抵抗体があるので避けたいだけ。
 それで、右側の道に入る。こちらの方が広い道。車が多いので、通りたくない道なのでコースから外している。
 そしてしばらく行くと、細い道があったので、そこに入り込む。
 目先が変わった。風景が変わった。いつもその時間帯に見ているものではない。
 しかし山田はこれは少しは望んでいた変化。山田が起こした変化ではなく、他動。
 こういうアクシデントとかハプニングで動きが変わることを山田は知る。テコでも動かなかった散歩コースが動いた。突然の何かで。
 見るもの聞くもの珍しい竜宮城に入ったわけではないが、それに近い変化。
 ただ、散歩コース内の風景と似たようなものだが、家が違うし道も違うし、塀も違うし、樹木も違う。
 それで山田は一寸新鮮な気持ちになる。
 やろうと思えばいつでもできるのだが、やれなかったことができた。
 
   了


2023年11月24日

 

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