小説 川崎サイト

 

北の外れのお堂

 

 高屋山の北の外れにお堂があると聞き、吉村は案内人と共に近くまで来た。
 それなりに山は深く、里からもかなり離れている。そんなところにお堂などあっても世話はできないだろう。しかし、あると言われている。
 山中にある祠のようなもので、行者などが作ったものかもしれないが、噂では寺院の講堂ほどの大きさだという。
 しかし境内のようなものや山門もなく、いきなり立っているらしい。ただ、それはお寺ではない。そして神社でもない。
 吉村はそれを聞き、興味がわいたので、行くことにしたのだ。吉村の主筋がそういう話が好きなようだ。
 吉村が発見すれば、主筋も喜ぶだろう。また、そういうことで仕えているようなもの。お伽噺のようなのを語るからお伽衆ではないが。
 それで高屋山の麓まで来たのだが、登ることが目的ではない。少し高い山で、目立つので、名のある山だが名山ではない。
 その北の外れとなっているが、山の北側の外れとなると、どれぐらいの距離なのかが分かりにくい。どこかで北を止めないといけない。高屋山の北側も山また山で、その先は里に出る。そこも北だ。
 里にお堂があっても不思議ではない。だから山の北側の斜面程度の距離だろうか。また北側に目立つものがあれば、それが臭い。
 さらに北の外れとなっているので、北側から少し行ったところだろうか。これで高屋山から離れることになりそうだが、そう遠くはないだろう。吉村はそこまで考えていた。
 それを案内人に言うと、このあたりまで何度も来たことはあるが、そんなお堂など見かけないと答える。
 行場になっていないかと聞くと、たまにそういう行者と出くわすことはあるが、めったにないので、行場ではないという。
 あれば近くの里にたまり場があるはず。このあたりの村にはそんな場所はないと。
 近くの村といってもかなり遠い。
 吉村がそのお堂を知ったのは、別件で出合った老人から。こう言うのがあると。そしてその老人も聞いただけで、それ以上は知らない。ただ高屋山の北の外れと場所と佇まいは分かっている。
 案内人の案内で高屋山の北側の登り口まで来た。勾配がきついのでお堂などを建てる場所はないはずなので、麓だろう。少しは平らな場所がある。
 北とは山の北側程度で、斜面は無理なので、北の外れとは、山の取っつきから少し離れた北側となる。
 それを案内人に言うと、そこまで詳しくは、このあたりの地形に強くないとか。また、山道から離れるので、猟師ぐらいしか立ち入らないだろうと。
 北側の平らなところといってもわずかな面積で、すぐ北には別の山があり、その谷間なのだ。
 田村は地面ばかり見ている。何かの痕跡があるのではないかと探しているのだが、人の手が入った形跡はない。
 それに足場も悪く、下手をすると谷に滑り落ちそうな箇所もある。もう少し広い場所を期待していたのだが、木が覆い繁り、通ることもできないほど。
 探す場所を間違えたのかもしれない。
 案内人は座ったまま田村を目で追いかけているだけ。知らないところでは案内もできないのだろう。
 徒労、と言いながら田村は案内人のいる場所に戻った。
「引き返しますか」
「うむ」
「ここからなら北側の里に出る方が近いですが」
「そうか、南から来たのだったな」
「北側の村は小さいですが、休めます」
「泊まれるか」
「交渉します」
「じゃ、そうするか」
「お疲れ様でした」
「うむ」
 北側の村の入り口にそんなお堂があったりしそうだが。
 
   了
 


2023年12月4日

 

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