小説 川崎サイト

 

スーパーの戦い

川崎ゆきお



 岡山はスーパーの閉店間際ラスト三十分半額食料品争奪戦に参加した。
 非常に大きなスーパーなのだが、人口密度がただ一カ所に集中している。
 陳列物が見えない状態など普通の時間帯にはない。
 五百円の弁当が百円引では魅力はないが、半額だとかなり得だ。<BR>
 値に変化のない食品は完璧に無視され、それは動かない。
 岡山はサイドから手を延ばし、何かをつかんだ。しかし、値札に変化のないものだった。
 何を買いたいのではなく、何が半額かが重要だった。それは今食べたいものではない。安くなってさえいれば手を出すべきなのだ。
 岡山の失敗は何を食べたいかにあった。
 弁当や寿司類、そして一般の惣菜が並んでいる。賞味期限が近いと正価が百円引きとなり、さらに売れ残りを予測して半額に達する。
 その瞬間は閉店間際三十分前で、店員がシールを貼りにくる。
 歴戦の勇士はシールなど見ない。シールを貼り直しにくる店員の後ろを追従する。
 そしてカートに手当たり次第投げ込むのだ。それが食べたいものかどうかなど、後で判断し、戻せばいいのだ。
 まず権利を得ることが重要なのだ。
 途中参戦した岡山は、やっと群れの移動に気づいたのだが、その時は手遅れで、最後尾では手が遅すぎたのだ。
 半額と大きな文字が記された一級首は、あっと言う間に取られてしまい。残るは百円引きの二級首だ。
 この二級首は別にラスト三十分の激戦でなくても、その前から陳列されている。すべてが半額になるわけではないのだ。
 岡山が得たのは百円引きのカラ揚げ弁当だった。食べたいとは思わないし、それほど安いとも思わない。群れが去った陳列台には、同種の弁当が並んでいる。
 岡山はカラ揚げ弁当を戻した。
 群れはフライや天麩羅コーナーへ進んでいた。
 しかし岡山は追尾する気にはなれなかった。勇士が既に一級首をもぎ取ってしまっていることを予測したからだ。
 岡山は弁当コーナーへ戻ると、弁当類の下敷きになっている小さな物体を見つけた。ご飯だけのパックが半額になっていた。
 半額なので、一級首だろう。
 そして惣菜コーナーで五十円引きの漬物パックを手にした。
 独り占め状態でカートにカゴの二階建てで走っていた勇士は、戻す事なく、レジへ走った。
 一体誰があれだけ大量の賞味期限が迫った食品を食べ切るのか、岡山は不思議に思った。
 
   了


2007年12月28日

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