小説 川崎サイト

 

夢の中の古い町並み

 

 夢で見た光景。知っている町だが、そういう町ではない。もう随分と行っていない町。だから以前の町と今とでは違っているはず。
 そして夢の中のその町も今風になっている。すると、昔の思い出の中にある町ではなく、最近の町へ行ったのだろうか。
 それは夢なので実際には布団の中。だた夢だとは気付いていない。ここが怖いところ。ただ、本当の今との繋がりはない。これはいきなりそこへワープしている。
 そこへ行くには電車を乗り換えるなりしないと行けない。その過程がないし、なぜそこへ行こうとしたのかの理由もない。気がつけばいきなりその町にいる。
 だが、それに対し、不思議とは思わない。ここが夢の恐ろしいところだ。そして夢の中でも意志のようなものがあり、何をどうしたいのかの願いもある。
 つまり自分自身として機能している。ただ、どんな服装で、何時頃かは分からない。昼間のようで暗くはないが。また、どんな靴を履いていたのかも分からない。そこを見ていないため。
 おそらくいつも履いていそうな靴で、着ているものも同じようなものだろう。しかし夏か冬かも分からない。
 そして見ているのは町並み。古い町並みがわずかだが残っている。リアルもそんな感じかもしれないが、区画整理とか開発で様変わりしているはず。
 昔のものなど片鱗も残っていないだろう。しかし、夢の中では残っていた。わずかだが、そういう家や、一寸した横町が。
 それはすぐに切れるのだが、その先にまだ残っているのもリアルだとあり得ないはず。
 最後にその町の近くまで行ったときは、もう何も残っていなかった。マンション群になっていた。だからわずかながら残っていることなどはない。
 残っている古い建物。これはほとんどが民家で、たまに町工場もある。その内部もよく見える。ごちゃごちゃしており、メカメカしている。
 さらに進むと大きな神社かお寺に出るのか、風景も町並みから丘陵の緑地になる。田畑もある。樹木も多い。参道のような所を歩いているとき夢が覚めた。
 これは散歩だ。夢の中で散歩をしていたようなもの。ただ、リアルとの辻褄が合わないのは夢では仕方がないとしても、昔の記憶ではなく、今に近い。
 記憶も年を経て変わっていくのだろうか。解釈が違うのではなく、記憶そのものもその後の展開があったように。
 ある物語のラスト。シナリオはそこで終わる。その後はない。しかし、それがあるような感じ。
 勝手に作られていたとしか思えない。
 ただ、その古い町並みは再開発で一気に更地になったはず。
 そのまま個々の家が取り壊したり、売ったり、立て替えたりしながら、じわっとした変化なら、夢の中の町並みに近い。
 その夢の町並みの作者は、本人がそっと作ったのかもしれない。
 
   了

 


2023年12月10日

 

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