小説 川崎サイト

 

大事な小事

 

 今日は何もないような日だった。そういえば昨日も似たようなもの。高橋はそう感じたとき、同じような日々が続くのは平穏で良いと結論を下した。早い。まだもう少しあるはずだが、省略。
 そういう日が続くと月日の経つのも早いが、そのスピード感はない。むしろゆっくりと時が流れている。
 これは忙しくないので、早くしなくてもいいため。だが、そのときはゆっくりと時間は過ぎていくように思われても一週間単位、一月単位で見ると、まさに矢。
 光陰矢のごとしの矢。しかしその中身は緩い流れに浮かぶ木の葉のスピードほど。これが雨後なら早いだろうが。
 平穏とはフラット。これは平らなイメージ。平たい。おうとつがない。あるにはあるが小さいのででこぼこと変化のある面ではない。
 廊下の板もつるっとしているようでも、虫眼鏡で見ると、筋が入っていたりする。木目に沿って。
 指先で何とか分かる程度。粒状の小さな塊が落ちていたりする。小さな顆粒ほどで、見た目分からない。その上に手のひらを当てると、一寸した刺激があったり、痛かったりするが。何もないはずのつるっとした廊下でも何かがある。しかし、邪魔になるようなものではない。
 粒状のものを踏んだとき、少しは感じる。それを付けたまま畳の座敷に入ったとき、そこで落ちたりする。ゴミが移動したのだが、ゴミと言うほどの大きさはない。指でつまめない小ささなので。
 これは指の腹で押さえつければくっつくかもしれないし、そこで潰れて粉になってしまうかもしれない。
 そういう感じの平坦な日々を高橋は最近過ごしているのだが、この平坦さ、平穏さはいつ崩れるかもしれない。
 一本の電話で、がらりと変化する。だから受話器を取るのが怖いので、留守番電話にしている。大概は録音スタート前に切れるが、その間、少しは録音されている。周囲に人がいるのか、またはざわついた場所からか程度は分かる。
 そして留守番開始に入ると切れる。ほぼセールスだろう。それで安心する。また、本当に録音電話に録音されていることもあり、こちらの方が怖い。要件が録音されているはずで、セールス電話のようなわけにはいかない。
 メールもそうだ。高橋は広告メールは削除していくのだが、これは平和。その中に怖いメールが届いていることもあるため。だから広告メールはセーフなのだ。
 要するに大波は立たないが、小波は立つ。それが気になるという程度。
 その小波の中で少し高いのが大波に見えたりする。小事に大事を感じる。
 昨日も何もないような日だったが、それに比べると今日はさらに何もない日だと、これも変化なのだ。前日に比べての話だが。
 大きなことが起こっていると、小さなことは無視される。
 些細ごとが気になる状態は平和なのかもしれないと高橋は思うことにした。
 
   了

 


2023年12月11日

 

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