小説 川崎サイト

 

森へ

 

 深い森に分け入ったとき、そこに何かいると感じることがあるらしい。副島はそれを期待し、あまり人が入り込まない森へ行った。
 森と言っても山だ。しかしほとんどの山は人が入り込んでいるし、植林だったりするので、自然林が良い。
 これは山深いところに行くしかないが、それでも手つかずの森というのは狭い範囲になるだろう。無人島でならあるかもしれないが、行くにしても便がない。
 だからそこまで良い条件は無理なので、できるだけ自然林が多いところで、人が利用しようとは思わない場所。これは荒れ地に近いかもしれない。または一つの山ではなく、険しい谷間や湿地だ。
 そういうのを地図で見つけ、上空写真などを参考にして、そのタイプの森に入り込んだ。
 バス道からかなり離れた場所。川沿いの未舗装な道を進んだあたりに、それらしい風景になるが、まだ電柱は立っている。さらに遡ると、車は無理なような荒れた道になり、電柱もない。もうこの先には村はないのだろう。
 副島は最後に電柱のあった村落跡のような所に車を止め、奥へと向かった。
 道は少し高いところにあり、下は谷。木のてっぺんが見える。川の両岸に少し幅があり、膨らみがある。そこが森っぽく見えるが、横に長い。
 適当なところで荒れ道から下へと降りる。道などないが、それこそ深い森に分け入る感じ。分け下るのだが。
 しかし灌木が厳しく、すぐに行き止まりや、通れるが、下を見ればそれ以上降りられそうになかったりする。
 それに下まで一気に降りるのはもったいない。
 結局山の斜面を移動しているだけで、平和部の森ではないので四方には広がっていない。
 しかし、人の手が入っていないのか、入っていてもうんと昔だろうか。杉ばかりが立っている山ではなく、いろいろなのが繁っている。
 自然にそうなったような配置で、勝った木は残り、破れた木は枯れる。だから倒木や枯れ木もそれなりにある。
 これは人が作ったものではない。だからこそ何かいそうな雰囲気には丁度。
 副島は腰を下ろせそうな岩があるので、そこで座り、しばらくあたりの様子を観察した。いや、感じようとしたのだ。何かを。
 これは行者のようなものかもしれない。じっとしていると、本当に何かがいそうな気がしてくるはず。それは風とか木の揺れとか光線とか鳥かもしれない。
 そういう錯覚で、何かがいるように感じるのかもしれないが、それはそれでいい。実際に何かがいるのなら感じることもできない存在だろう。
 副島は少し座っているだけだったが、不安が襲ってきた。こんな所にいてはいけないと。
 やはり、ここは人が入り込んではいけない何かがいるのかもしれないが、不安という漠然とした気持ちが何がきっかけで起こったのかは分からない。
 それで、電柱が立っていた道まで戻る。村落部の入り口だろうが、廃村だと言うことは知っていた。
 だから村まで行かず、入り口の道沿いの空き地に車を止めていた。
 電柱は廃村まで続いているのだが、電気が通っているのかどうかは分からない。また、来た道には信号はなかった。
 何かいるような森よりも、廃村をうろうろした方が分かりやすかったかもしれない。やはり人の跡というのは理解しやすいためだろう。
 
   了



 


2023年12月16日

 

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