ラストファイト
川崎ゆきお
「今年も暮れますなあ」
「そうですなあ」
「今年は何かなさいましたか？」
「何かしたような気がしますが」
「印象に残ってないと」
「そうですなあ」
「今年はこれをやったと言えることがあるといいんでしょうがねえ」
「さっぱりですよ」
「まだ明けておりませんよ」
「まだ、時間がありますなあ」
「日にちはないが、時間はある」
「ほとんどカウントダウンですよ」
「いやいや、ラスト数時間で、一気に成果を上げることも可能でしょう」
「年中やていてもできないのに、半日足らずでできましょうか」
「そこが運ですよ」
「そんな年がありましたか」
「ない」
「じゃ、無理じゃないでしょうか」
「一度ぐらいはあるやもしれませんぞ」
「そうですなあ。こうなれば、運を頼るしか可能性はありませんなあ」
「しかし、無事に年越しできれば、まあ、満足かもしれません」
「平等に年だけはとりますからなあ」
「一年長生きしただけでも感謝しなければ」
「そうですなあ。そういうところに持ち込むしかなさそうです」
「私は毎年、それです」
「実は私も」
「結局何もできませんからなあ」
「年々可能性が減りますねえ」
「そうそう、年々じり貧ですわ」
「下降傾向は何とかなりませんかねえ」
「景気がよくなるとね、忙しくなりますよ。年をとってからは辛いです。だからじり貧でいいのですよ」
「諦めムードですなあ」
「諦めるんじゃなくて、それが相応しいのですよ」
「まあ、よぼよぼになっても景気がいいのは、辛いかもしれませんなあ」
「そうでしょ。働き盛りに働いたのだから、もういいのですよ」
「私は働き盛りにも旗らなかったですから、貯金もありません。隠居もできないですわ」
「いいじゃないですか。働く意欲が残っておるのですから」
「いやでも働かないと立ち行きません」
「それは御苦労な」
「はい。だから、いい年であるような何かを年内にほしかったのですが。もう年も終わりです」
「まだ、数時間残っていますよ」
「そうですなあ。除夜の鐘がなるまで、期待しますわ」
了
2007年12月31日