小説 川崎サイト

 

緩衝地帯

 

 二つの勢力の間に小さな勢力がある。どちらにも属していないが、悪い関係ではない。行き来があるし縁者もいる。
 二つの勢力はこの小さな勢力を欲しがったが、どちらかが手を出すと、どちらかが救援に来る。そうすると、二つの勢力同士の戦いになるので、それは避けたい。この二つの勢力、仲はよくない。行き来もないが、裏側ではある。
 また大きな勢力が小さな勢力を攻めたいと思っても、縁者がいるのだ。これはどちらの大きな勢力も事情は同じ。
 どちらにしても攻め落とし、自領にはできない。さらにどちらかの勢力が奪ったとしても、勢力同士が隣り合うことになり、いざこざが絶えないだろう。小さな小競り合いが全面戦争になりかねない。
 そのため、その中間にある小勢力は緩衝地帯として丁度良いのだ。
 この二つの勢力、大きさは似ており、強さも似ている。戦えば互角なので、勝負が付かない。お互い勝つには苦労する相手。
 ただ、中間にある小勢力を取れば、取った側の勢力が大きくなり、戦えば勝てる。だから、それを二つの勢力は考えているのだが、そうならないのが現状。
 こういうとき、小さな勢力の中に凄い人物がおれば、二つの勢力を戦わせ、漁夫の利を取りに行くかもしれないが、そんな人はいない。
 小さな勢力は戦らしい戦などしたことがない。戦い慣れていないし、戦などいらないと思っている。これまでもいろいろとあったが、戦わずに守り切っている。
 それを仕切っていた人がいたわけではなく、そういう土地柄で、そういう人柄なのだ。領土は狭いが肥えており、結構豊か。だから領土を広げる必要はなかったし、戦う兵士も多くはない。城もなく庄屋程度の規模。堀や石垣もない。
 ただ、市場は賑やかで、先ほどの二つの勢力の人たちも来ているし、さらに遠い他国からも。また街道が走っているので、旅人も多い。
 二つの勢力がにらみ合うような関係になり、すわ戦かと思われたときにも、両者がこの小さな勢力のあるお寺で話し合ったことがある。どちらも行きがかり上、戦いになるのを恐れて、ここで和解したのだ。戦えばこの小さな勢力の地が戦場になるだろう。
 この小勢力の殿様、さぞや凄い人かと思われるが、それほどの人物ではない。欲がないわけではないが、この領地だけでも豊かなので、満たされているのだろう。
 戦国の世、二つの大きな勢力はその後消えている。小さな勢力は相変わらず小さな天地でそのまま残っている。
 江戸時代には一家村だけの庄屋。帰農していた。数か村を領していたが、それぞれの庄屋は全て縁者だった。だから領土を失っていないのと同じ。
 
   了


 


2024年1月31日

 

小説 川崎サイト