冬晴れ
川崎ゆきお
日差しが暖かい。風もなく、日向ぼっこにはちょうどだ。
門田は南向きのガラス戸越しで、いい気分でいる。
「日向ぼっこか」
長い間やっていない行為だった。暖かだろうが寒かろうが関係のない生活だった。
しかし、門田の一番古い記憶は日向ぼっこだった。
縁側と座敷をまたぐように敷布団があった。
布団を乾していたのだろうか。それを取り込んで屋内にいれた状態だ。
門田はその上で寝そべっている記憶だ。
暖かく、そして柔らかいので、気持ちがいいのだ。
「あの時以来だ」
門田は座布団を折り、枕にした。
もう少し、そうしていたかった。
「日向ぼっこを楽しむ年になったか」
もう忙しくはなくなっている門田の時間の中で、日向ぼっこを入れるのは簡単だった。
「しかし、どうして横になったのだろう」
門田は日向ぼっこのためにガラス戸前に寄ったのではない。
「そうだ。捜し物をしていたんだ」
何を探していたのかを忘れたようだ。
「必要だったように思うが、何に使うのかを忘れているなあ。何をやろうとしていたのだ」
門田はいい気分でそれを思い出そうとしていた。
「大した用事じゃなかったはずだ。急に思いついて探していたんだ」
座敷の真ん中にコタツがあり、そこでパソコン画面を見ている時に思いついた用事だった。
「思い出せないと気になる」
しかし門田は真剣に思い出す気はないようで、ぼんやりを楽しんでいる。
陽が門田の頭を暖める。
この温度が頭の回転をゆるめる。
「ここに何かがあったんだ。だから、ここに来たんだ。捜し物はこの近くにある」
ガラス戸近くに小物入れの棚がある。その棚に収納されている何かを取りに来たのだ。
「道具だ」
門田はやっと思い出した。
「何の道具だろう」
その道具が目的ではなく、それを使って何かをやろうとしていたのだ。
「何をやろうとしていたのだろう」
きっかけはパソコン画面だ。
しかし、パソコンのあるコタツに移動する気になれない。
「また思い出すだろう」
門田は本格的に居眠りだした。
了
2007年01月08日