起業キット
川崎ゆきお
「起業家を支援する起業をするんだ」
「そういう起業家ばかりで、本当に仕事をやっている起業家って、いるんでしょうか？」
「これが一番簡単な起業なんだ」
「起業するための起業なんですね」
「そうだよ。いけないかい」
「じゃ、だれが仕事をやるのでしょうか」
「起業家のお手伝いも仕事じゃないか」
「そうですが、全員が手伝いでは」
「なにも、みんながみんな手伝いに回る必要はないんだよ。だけど、これと言った仕事がないでしょ。あなたも探したでしょ？ ありましたか？」
「それは…」
「ないでしょ。普通の人には無理だよ。特技もコネもないのでしょ。あるのは金が欲しいという気持ちだけ。だったら金になれば職種は何でもいいんじゃないの」
「でも、少し赤羅様です」
「赤羅様、いいじゃないの、分かりやすくて」
「起業家を起業するとは、つまり、私のような人間を支援するわけですね」
「そうだよ。それのどこがいけない。社会のお役に立っているじゃないですか」
「でも支援して欲しい私が、他人様を支援するわけでしょ」
「お手伝いできるでしょ。難しい問題じゃないですよ」
「私はまだ起業していません。それでもいいのですか」
「この仕事をやることで起業できるじゃないですか」
「具体的には、どうすればいいのでしょう？」
「起業コンサルタントの会員への勧誘ですよ」
「誰を？」
「それはあなたが探しなさいよ。または起業を勧めればいいのですよ」
「いや、私にはそれだけの説得力はありません」
「だから、あなたも起業コンサルタントに入るのです。勧誘マニュアルもあります。誰でもできることです」
「つまり私のような人間を誘えばいいのですね」
「キット一式用意しています。ネットでの罠の張り方や、メルマガ配信も」
「そのキットは高いのではありませんか？」
「あなたもそれを売ればいいのですよ。二人に売れば、もうそれだけで黒字ですよ」
「それって、情報商財のネズミ講じゃないのですか」
「違いますよ。その言葉二度と言っちゃいけませんよ」
「でも、それじゃ勧誘員ばかりの起業家ばかりが異常に増えるのではないですか」
「気分の悪い人だなあ。無理に勧めませんよ。いやなら、これ以上。説明は致しません」
「もっと聞かせてください」
「じゃ、キット買いますか？」
「はい。きっと買います」
「うっ」
了
2007年01月09日