小説 川崎サイト

 

何かある

 

 何かあるのだがよく分からない。
 それで島崎はこれではないかと覗いてみた。確かにそれなのだが、しばらくすると、それではないような気がする。
 では、こっちのこれかもしれないと思い、そちらも覗いてみた。確かにそれだ。間違いない。何かとはこれだったのだ。
 そして、またしばらくすると、それではないような気がしてきた。では何だろう。
 探せば見つかるのだが、やはりそれではなかったというパターンになる。確かにそれもそれなのだが、何だろうというのがいつまでも残る。
 島崎は気味が悪くなってきた。何かあると思う思いは何処までも続いているため。
 探せば見つかる。しかし、それもそれなのだが、それではない。ではそれは何処にあるのか。
 これはないような気がしてきた。その何かとはもっと深い箇所にあるのかもしれないが、気持ちの底などないような気がする。出てきたものが全てだ。その奥には何もない。
 島崎はいつそんな考え方になったのか、思い当たらないが、そこに埋まっているのは忘れていたようもので、これは必要がないので、忘れたのだろう。無理に思い出せば出てくるが、結構粗い。
 記憶の中から消えているものの方が多い。それらは何処へ行ったのか。全部覚えていたとすれば頭がパンクするだろう。だからそれは外部に外付けとしてならいけるかもしれないが、そこまで行って探し出す用事などないだろう。
 一年前に食べた夕食のおかず。こんなものは忘れている。しかし、覚えている人がいたなら、その人に聞けば分かる。だが、大したことではないし、参考程度。
 また食事日記などを書いていたとすれば、それを見ると思い出すだろうが、それが役に立つのだろうか。必死で一年前に食べたものを思い出す作業などいらないだろう。
 しかし、先ほどの島崎が感じた、何かあるというのはタイプが違うのかもしれない。これは記憶ではなく、まだ体験していないことだろう。起こりそうなこと。起こしたいようなことかもしれない。ただの予定とか希望だったりする。しかし、過去から来ている可能性もあるが。
 思い当たることはあるのだが、それではないが続くので、やはり最初からそんなものなどなかったのかもしれない。
 何かあると思い続けるわけではないが、一寸気になるモヤッとしたものがある。これは本当は何もないのだろう。
 
   了


2024年3月20日

 

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