小説 川崎サイト

 

楽しみ

 

「上岡さんは何を楽しみに生きていますか」
「楽しみが生きがいかね。人生を生きるとは、楽しむためかね」
「その中で、楽しみがあるはずなので、それを一つ」
「人生の中に楽しみはある。確かにな」
「たとえば最近は」
「夕食のおかずが楽しみだ」
「それはいいですねえ」
「それは人生そのものではないがね」
「人生を絡めてくるのが上岡さんらしいです」
「人生と言うより、一生だな。どう生きてきたかだ。その中には楽しみも当然ある。苦しみがあるようにな。それは歓迎しないので、楽しいことを望むだろう。これは人により楽しみ方は様々。また楽しむことを控える人もいるだろう」
「上岡さんの場合、どうなんですか。夕食のおかず以外に、何かありますか」
「いろいろある。夕食のおかずと似たようなものだがな。これはどっちでもいいのだ。だから楽だ。苦労もいらん。外食するときは好きなものを選べる。選んでいるときは楽しいかどうかは分からんし、食べているときも楽しいとは限らんが、だから楽しみにはしておるがそうでもないときもある」
「他に何かありますか」
「新製品」
「ああ、それはあるでしょうねえ」
「ずっと使っていたものの新製品などが出ると楽しいねえ。しかし使ってみないと分からないがね。これも新製品が出たというのを聞いたとき、楽しいねえ。その先は知らんが、満足がいきそうだと楽しい」
「お仕事や人間関係ではどうでしょうか」
「これは普通だね。楽しいこともあるし、苦しいこともある。上手く行けば楽しい。行かなければ苦しい。だから普通だ。それに楽しさを狙う余裕はないしね」
「楽しいことについてどう思われていますか」
「いいじゃないか」
「じゃ、楽しみを求めるタイプですか」
「そんなものにタイプがあるのかね。楽しそうだと思えば行くだろう。追うだろう。そこまでしなくても静かな楽しみ方もあるしね」
「楽しみは大事ですか」
「そうだね。これがないと味気ない。楽しさは喜びだからね。ずっと喜んだままだといいんだが、そうはいかない。たまに喜んでもいい状態がある。だからいい。多くなくても」
「ごく一般的ですねえ」
「ああ、普通だね。私らしさはあまりないか」
「そうですねえ」
「じゃ、その辺の人のコメントと同じか。じゃ、役立たずで悪いねえ」
「いえいえ。参考になります。上岡さんがどういうお考えなのかが」
「それを聞いて、楽しいかね」
「意外と普通だったので、一寸楽しいです」
「じゃ、楽しませたわけだ。いいことをしたんだ」
「いえいえ」
「今後どのような楽しみ方をしたいですか。夕食のおかずではなく」
「楽しもうと思うと外れる。逃がす。逃げていく。だから狙わない方がいい」
「でも、想像するでしょ。こういう状態なら楽しいとか、こういうのがあると楽しいとか」
「大いにあるがね。あまり強く念じない方がいいようだ」
「そうなんですか」
「意外なものが楽しかったというのがいいねえ」
「でも、楽しみがあるだけで、いいですねえ」
「そうだね。ないよりもね」
「あ、はい」
 
   了


2024年3月22日

 

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