小説 川崎サイト

 

遷都

 

 いつも戻ってしまう。そこからできるだけ遠くへ行ったつもりで、もう戻りはないだろうと思っていても、いつの間にか戻っている。
 悪いものではなく良いもので、いい結果になるので、それで事足り、他へ行くことはないのだが、離れたくなる。遠ざけたくなる。
 ずっとこのままでいいのかと思う。それはいつも同じためだ。その発展や進展とかはない。ずっと同じものであると言うだけで罪とまではいかないが、少しは違ったものが欲しい。
 目移りできるものがあれば、すぐに飛びつくのだが、そのうち飽きてきて、また戻ってしまう。そこから離れたかったのに、戻される。凄い引力だ。
 また、戻るべきところはそこが一番妥当なためかもしれない。妥当であるだけに、そうではないものに目移りする。要するに違ったものに。そしてそこへ引っ越し、住めば都になり、それがいつの間にかいつもの状態になれば、それはそれでいい。
 しかし、そこもまた目移りし、違うものへと向かうことが多い。その都にとどまる期間が短い。
 そして都を次々に代えるのだが、都だらけ。その中でも一番よく戻ってくる都がある。他の都はもう二度と行くことは少ない。
 同じように戻っているのだが、何度も何度も戻される都がある。いつの間にかそれが一番古い都になる。
 その都から移動しても、また戻ってくるので、何処をどう回っても、必ず元の都に落ち着く。
 しかし、そこがメインだとは思っていないのだ。仮の都のようなもので、ここではないだろうと思うからこそ長くはいなかったりする。本来の都があると思い、探すわけだ。
 どの都に住んでも長くはない。そしてそこは都ではなかったことにすぐに気付いたりする。ここではないと。
 そしていつも戻ってしまう都。ここは何だろう。おそらく最高の都で、一番住みやすいのは確か。それを越える都を探していただけの話。見つからないので、戻ってきただけ。
 だから放浪する必要は最初からない。そのお気に入りの都に住めばいいのだ。それを越える都がないのなら。
 だが、お気に入りの、いつも戻ってしまう都ではない別の都が気になる。噂を聞き、行きたくなる。しかしその繰り返しで、やはり戻ってしまう。
 ただ戻ったとき、その都の良さが増えている。他の都へ行く前よりも。
 ずっとその都にいたのでは分からないことが、出て行くと分かる。
 それだけのこと。
 
   了





2024年4月5日

 

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