小説 川崎サイト

 

ある苦痛

川崎ゆきお



「そろそろ本心を明かしてほしいのですがね」
「何かありましたか?」
「不可解なのです」
「私がですか?」
「そうです」
「私に何か不都合がありましたか」
「そうではないのですが、総合的に、あなたは…」
「総合?」
「この仕事を本心から楽しんでやってないのではないかと、思ったのですよ」
「それが総合的?」
「そう、総合的に見て、やるべきことはやっているようですが、ふに落ちない面があるのですよ」
「そうなのですか。じゃ、メンバーから外れましょうか」
「ほら、そういう面があるのです。あなたには」
「でも、私がここにいては、いけないようなおっしゃられ方なので。そのほうがいいのかなあと思ったのです」
「それは、水臭いじゃないですか」
「では、私としてはどのように」
「だから、本心を明かしてほしいのですよ。それで我々も納得できるし、また、今後の対応もできます」
「本心ですか」
「どう思われています? 我々のチームを」
「別に、特に…」
「不満とかはないのですか?」
「特にありません」
「では、楽しいですか」
「はあ?」
「我々と一緒に仕事をするのが楽しいですか」
「た、楽しい?」
「じゃ、苦しいですか?」
「特に苦痛ではありません」
「では、不満はないのですね?」
「はい」
「それは本心ですか?」
「はい」
「そこがふに落ちないのですよ。何か嫌なこともあるでしょ。それを隠す必要はないと言っているんです」
「ありません」
「頑固だねえ。もう少し心を開いてくださいよ。これは親切で言っているのです」
「やはり私はふさわしくないのですね」
「そんなことはありません。あなたの仕事ぶりは全員認めています」
「ありがとうございます」
「じゃ、本当の気持ちを言ってください」
「素直に従うのは駄目なのですか?」
「気持ちが繋がっていないと言っているのです」
「分かりました。長くお世話になりましたが、これ以上追求されるのは苦痛です」
「そんな意味じゃないんだ」
「明日から、他の人に来てもらってください」
「お、おいおい」
 
   了


2007年01月17日

小説 川崎サイト