小説 川崎サイト

 

フリーズ

川崎ゆきお



 挙動不審は間が空いた時に起こりやすい。
 その間とは魔の間だ。
 魔が差したの間は、何か別の行動に出てしまうことだが、そこには意志がある。
 そうではなく、何をしていいのかが分からない状態になることだ。
 妙な動きであっても、その動きが目的ではない。とりあえず何かしているだけのことだ。
 爪をかむとか、髪の毛をむしるとか、瞬きが早くなるとかは、それをやりたくてやっているわけではない。
 間を埋めるための何かである。
 また、動きが全くなくなることもある。挙動停止であり、生体反応がない状態だ。
 上原はたまにその状態になる。フリーズした状態だ。
 面食らってしまい、何をどうすればいいのかが分からなくなるのだ。
 停止状態ではいけないので、何等かの単純な動作を、自然な振る舞いのように見せながら、その間の間から脱出を試みる。
 顔がかゆくないのにかいてみたりとかだ。
 しかしそればかりを繰り返していると、意味が発生してしまう。そのため次の動作に移らないといけない。
 なぜそんな状態になるのかを上原は考えた。
 その多くは、自分が不利な状態に徐々になっていく過程で起こることが分かった。
 きっと居心地が悪いのだ。
 また、これは他者の視線が関係していることも分かった。
 上原はフリーズを起こした時は、自分にはふさわしくない行動に出ている時だと教訓を引き出した。
 身体の反応が、無理だと警告を発しているのだと思うようになった。
 妙な間が生まれるのは非常に危険な状態なのだ。
 上原はその後、それを自分の危機管理に生かすことにした。
「上原君の場合、危機は回避できてもチャンスをものにできないのじゃないのかな。安全地帯に戻るのはいいが、それじゃ、得るものも少ない」
「得るもの?」
「新たなチャンスに向かいアタックする姿勢だよ。大きなことを成し遂げた人は、必ずそんな賭けをやっている。能動的行為というやつだよ」
「先輩もそうでしたか」
「そうだよ。まだまだだけどね」
「それより妙な間が嫌なのです」
 上原は先輩に魔の間を語った。
「ああ、あるねえ、そういうのは。別にどうってことはないでしょ」
「それが怖いのです」
「妙なのが怖いんだね」
 上原は、さらにその話を続けた。
「どうかしましたか、先輩?」
「ああ…」
 先輩は、上原の話していることに面食らい、一瞬フリーズしたようだ。
 
   了


2007年01月19日

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