小説 川崎サイト

 

探さないのに見つかる

 

 かなり以前からそこにあったのだが、高橋は知らなかった。探していなかったため。
 目の前にサッと現れても気付かなかったかもしれない。意識を向けていないため。そういうものがあること自体知らない。知っているのは以前の知識で、非常に印象深かったので今でも覚えているのだが、思い返す機会は滅多にない。だから封印していたわけではないが、その後の流れで過去へ過去へすっこんでしまい記憶の彼方。
 そんな高橋だが、あることで、うろうろしているとき、ふと目にとまった。何処かで見たことがある。それを求めてうろうろしていたわけではない。別件だ。それを追いかけているとき、古いものが目にとまった。
 事のついでに見つけたのだが、それまで追っていたものよりも凄いもの。もしそれが本物なら。そして手に入るのなら。
 そういうことはたまにある。探していないのに見つかる。探せばもっと見つかるのだが、その候補にはない。探そうと思いつかないのだ。
 しかし、それはかなり前からそこにあり、それなりに知られていたのだろう。だから、ついでに見つけることができたので、奥深いところに隠されていたわけではない。
 高橋は手がかりを得、最初の探し物ではなく、そちらへ探索に切り替えた。
 すると、いとも簡単に手に入った。既にそんなルートでもできているのか、簡単なのだ。すぐに見つかった。
 別に隠されていたわけでもない。高橋が気付かなかっただけ。そのアンテナを始終立てていたわけではないため。
 探しても見つからないものもあるが、探さなくても追いかけなくても簡単に見つかるものがある。これは何だろうかと、高橋は考えた。
 結局はうろうろしていたのがよかったのだろう。ついでに見つかったのだから。そしてそれは意外なもので、まさかそこにあるとは思わなかった。あると分かっておれば探すだろう。
 うろうろすることで偶然発見する。探さなくても勝手に見つかる。これは何だろう。
 探しても見つからないものはあるが、それは既にあったのだ。ただ、よく思い出せたものだ。常日頃から狙っていたものではないので。
 犬も歩けば、では、狙っているものと偶然遭遇するようなことだが、今回は狙っていなかった。候補にさえ挙がっていない。そんなものは存在しないと思っていた。
 しかし、あったのだ。これには高橋は驚いたのだが、肝心要の探しに行ったものは見つからなかった。それは大したことではないので、それでもいい。ただ、それを探しに行ったおかげで、今回の発見となった。
 だから無駄に動き回るのも、悪くはない。偶然といえばそれまでだが、じっとしていたのでは偶然の率も低いだろう。
 何かよく分からないが、高橋は労なく手に入れたので、ものすごく得をした気分になった。その気分だけで、もう十分だ。
 
   了


2024年5月2日

 

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