小説 川崎サイト

 

失敗を招く

 

「全ての準備は整った。あとは細かな変更はあるやもしれんが、これは上手く行く」
「下地ができていますからね。準備万端。備えあれば憂いなし」
「これ以上備えるものはないはず。打つべき手はずは全部打っておる。多少抜けていることもあるが、今までに比べれば完璧。しかし、アリの穴で土手が崩れることもある。まあ、そこまで考えることはないがな。万が一もある」
「まだ、心配なのですか」
「できすぎた用意のためじゃ。ここまでやると、もしもの事が気になる」
「その、もしもとは」
「分からん」
「では何が欠けているのでしょう」
「できすぎたことが欠点だ」
「そんな馬鹿な。それは取り越し苦労ですよ」
「完璧な用意、下準備といっても、取り残し、見落としがあるやもしれん。今のところないがな。ただ、小さな事は少しあるが、ここは無視してもいい。それが原因で失敗するとは思えんからな」
「用意周到が逆にアザとなるのでございますか」
「これまでにないほど準備をした。これが怖い」
「何がでしょう」
「ここまで準備をして、失敗したとなると、今後に関わる」
「今まで、そんな準備などされなくても、何度も上手く行ってますからねえ」
「そうなんじゃ。余計な準備をしすぎたことが今までと違う」
「その準備、私も手伝わせてもらいましたが、楽しかったですよ」
「楽しい?」
「いえ、これなら先が楽しみだと」
「わしも楽しみにしておる。だから、より楽しめるため、準備を怠らなかった。これで盛り上がるしのう」
「はい、いい感じで臨めます」
「盛り上がりすぎた。これじゃろう。失敗は」
「まだ始まっておりませんよ」
「上手く行って当然。これが怖くなってきよった」
「何と難しいお方じゃ」
「そういうな。絶対に可能なものだけに怖い」
「そんなお考えではしくじりを招きますぞ」
「もう招いておる」
「それで延期ですか」
「怖くなったのでな」
「怖い人じゃ」
 
   了



2024年5月5日

 

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