小説 川崎サイト

 

人間ウォッチング

川崎ゆきお



「人の動きを見ていると面白いねえ」
「動き方ですか」
「移動の仕方じゃない」
「人間観察ですか?」
「まあ、そうだ」
「先生も観察されているんじゃないですか」
「そうだろうねえ。君も私を観察しておるのか」
「動物を見るような感じでの観察はやってませんよ」
「まあ、人も動物だからね。だから、スマートにはいかない」
「スマートとは?」
「ストレートに、とかだ」
「先生の人間ウォッチングを見ていると、興味尽ないです」
「それは、観察内容ではなく、観察している私の主観をかね」
「ああ、そういう意味では」
「私の見方を見ることで、君は私を観察しているんだね」
「その面も確かにあります。先生も当然私を観察されているのでしょ」
「いや、君はサンプルには入っていないよ。対象外だ」
「どうしてですか。先生の人間ウォッチングは一般的な人間の観察でしょ」
「身近な人間相手では先入観が先立つんだよ。君のことは、見知らぬ人間より個人的に情報を得ているのでね」
「それを聞いて安心しました。僕も先生の辛辣な視線を浴びているのではないかと心配していました」
「まあ、そういう関係が面白いね」
「これもまた一般的でしょ」
「監視しあう関係はあまりよくありませんよ。それを意識しだすと演技が加わるからね。見られていることを意識する感じです」
「それもよくあることですね」
「知らないうちにやっておるねえ」
「それって、よくある世間話の中に登場する人の噂話に近くありませんか」
「双方向の噂だね。どちらも噂を楽しんでおる」
「ところで、次はどんなテーマで迫ります?」
「観察における化け物の発生にしましょう」
「何ですか、それは」
「観察することで事実を得るのだがね」
「一般化、普遍化するわけでしょ」
「そうならないで、とんでもない幻想を生み出すことがあるんだよ」
「それが、モンスターですか」
「観察にはこの化け物が必ず生じる。それがなぜなのかが、次回のテーマだ」
「怖そうですね」
「まあね」
 
   了


2007年01月21日

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