計らう
「河野家との縁が戻った。元々縁のある家。戻って当然じゃが、しばしの間疎遠。行き来は途絶えておった」
「戻ってよかったですねえ」
「ところが河野家の代わりに土田家との親交が深まった。家格は下。土田からいろいろと誘いを受けるようになり、気が楽な相手なので、たまに乗るようになった」
「今では非常に近い存在です。私も土田家の家来衆とも親しくしております」
「困った」
「何がでございますか」
「河野家だ」
「そちらの縁も戻ったので、喜ばしいことではありませぬか」
「席がない」
「え」
「河野家の席に土田家が座っておる」
「何席でも構わないのではありませんか」
「親しくする家は一つでいい。わしも疲れるし、金もかかる」
「そんなけち臭い」
「土田家もなくてもいいのじゃ。よほどスッキリする」
「しかし、土田家は離れようとはしないでしょ」
「懐かれたようじゃ」
「はい」
「土田家なら相手をしてもいい。気楽なのでな」
「河野家とはそうはいかないと」
「気を遣う。土田家にも気を使いはするが、使い方が違う。河野家の方が家格が上なのでな。扱いが面倒」
「しかし、関係を続けた方がよろしいかと」
「何がある」
「土田家よりも役立つかと」
「どのような場合にじゃ」
「上に通じております」
「御重臣の方々とか」
「さようでございます」
「そんな用などない」
「そうですね」
「土田家は下に通じておる。こちらの方が良い」
「殿は楽な方を選ばれる」
「悪いか」
「いえ」
「わしは何もしたくない。気楽でいたい」
「今、藩は大変な時期。聞こえが悪うございます」
「聞こえてもいい。わしなど活躍する場などない」
「河野様からの誘いはどういたしましょう」
「また縁が繋がったが、河野家が何を考えておるのかは筒抜けじゃ」
「やはり藩政」
「巻き込まれとうないので、やはり、断る」
「はい、そのように取り計らいまする」
「うむ、計れ」
了
2024年5月8日