小説 川崎サイト

 

体験談

 

「体験外のことを語れるかどうかというお話ですが」
「あ、そう」
「語れますか?」
「常に想像で語っているでしょ」
「でも本人の実体験ではない」
「実体験したことも想像だったりして」
「それじゃ話がかみ合いません。全てが想像になります。想像はまだ起こっていない事で、また起こっていてもそれがまだ何かまでは分かっていない状態」
「しかし、何ですかな。そういう問いかけは」
「体験していない人と体験している人とでは違いがあるかと」
「何の?」
「その神妙性にです。リアリティーが違うと思います。実体験なら、それが担保」
「空手形かもしれませんよ。体験したときに受けた感じも違うでしょ。とんでもない受け止め方をしていたこともあるでしょ」
「しかし、体験者が語るというのは重みがあります。想像ではなく」
「何かそれで問題でも」
「経験のないことを語るのは控えるべきかと」
「ないのなら、語らないでしょ」
「いえ、想像で語る人がいますので」
「実体験をした人の話を聞いて、それを信じて、それを実行したとき、ぜんぜん違うことだったりもしますよ」
「それも一つの事実なので、リアルです。やはりそれも現実」
「しかし、間違ったり、曲げている。だから当てにならないこと多々あり」
「想像の方がよほどとんでもないことになっていたりしそうですが」
「そうですな」
「やはり経験者は語るの方がよろしいかと」
「それを聞いた人は、いろいろと想像しますね。それはいいのですか」
「その体験談に多少の色は付けるでしょう。または省いたりも」
「場合によっては語られていないことを付け加えたり」
「しかし、貴重な体験は貴重です」
「そのままですなあ」
「体験を疑っておられるのですか」
「そう体験し、そう思ったのなら、仕方がないこと。そういう体験だったのでしょう。その人にとってはね。しかし別の人が同じ体験をして、別の印象を受け、体験談も変わるでしょ。場合によっては悪い体験がいい体験になっていたりとか」
「何か押さえ込めませんか」
「何を」
「曖昧なので。ここは動かないというような」
「まあ、人が受ける印象など様々。それでも似てますがね。そして想像と変わらなかったりします。よくできた想像はバランスがよく、なるほどと思えるような話に仕上がっていることもありますよ」
「じゃ、想像でもいいと」
「それは想像にお任せします」
「あ、はい」
 
   了


2024年5月22日

 

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