小説 川崎サイト

 

冴える法螺貝

 

「どうですか、最近」
「冴えない日々ですよ」
「毎日ですか」
「多いですねえ」
「続けてですか。連日」
「そういうわけではありませんが」
「じゃ、ずっと冴えないわけじゃない」
「冷やかしもあります」
「日の冷やかし」
「朝から、これは良いことがあるかもしれないと期待していたのに、何もなかった。間違いだった。思い違いだったこともあります。結果的には冴えない日になりました」
「でも朝からしばらくの間は冴えていたのでしょ」
「はいはい」
「じゃ、その日は冴えない日じゃなく、冴えた日だったんだ」
「だから、昼頃、正体が判明し、そうではなかったので、余計に冴えない日になりましたよ。いつもの冴えない日に比べても」
「冴えた日がいいのですね」
「元気溌剌な」
「それじゃ、勝手に元気になればいいじゃないですか」
「いいことがないと元気になれませんよ」
「そうですねえ。でも自家発電で勝手に元気になればいいんですよ」
「やはり何かないと」
「その何かが大事なんですね。タネや薪のようなもの。燃料になるようなもの」
「そうです。それがやってくるのを待っているのですが、滅多に来ません」
「たまには来るんでしょ」
「かなり間隔が開いてなので普段は冴えない日ばかりです」
「でも冴えないときの方が静かで良くはないですか」
「欲ばかり浮かび上がります」
「それを浮かべている間は、いい感じでしょ。冴えないといいながらも、多少は冴える」
「しかし、思っているだけで、そんなことは起こりませんし」
「待機して待てタイプなんですね」
「あなたは」
「私も冴えないときは往生しますが、まあ、支障が出ることはないので、放置しています」
「じゃ、待機して待てですね」
「いや、いいことが起こるよう準備して過ごします」
「元気ですねえ」
「待ってる間、退屈でしょ」
「はい」
「冴えない日でも準備していると調子が出てきて冴え冴えしてきます」
「いいことを聞いた。僕も準備します」
「そうですよ。その準備が冴えた日へと繋がりますので」
「ほほう、上手いことを言う」
「言ってるだけでも調子が出てきます」
「ホラも吹きようですね」
「呼吸が整います」
「あ、そう」
 
   了


2024年5月26日

 

小説 川崎サイト