小説 川崎サイト

 

屁の突っ張り

 

 田沢家は兵が足りない。三方で戦があり、もう一カ所火種になっている砦があり、その兵が敵に回る気配がある。援軍に来るように頼んでも来ないのだ。さらに書状を出すが、返事はない。
 そのため、方々で戦いがあるため兵が足りない。
 それで敵に回ったかもしれない安永砦を見張る兵が必要になり、宇治笠郷に援軍を依頼した。
 安永砦の兵と言っても郷氏のようなもので国衆とも呼ばれている。半ば従属しているが家臣ではない。
 その見張り役の宇治笠郷も似たようなもの。一様味方。
「宇治笠郷ですか」
「手が足りぬ、下手に動けぬように見張るだけでいい」
「宇治笠六人衆がおります」
「頭が六人おったのう」
「その六人衆はそれぞれ勢力を持っています。それはやや複雑で」
「ひとまとめではないのか」
「六人衆も交代制でして」
「何でもいい。その六人衆の今の代表に救援をお願いしろ」
「書状では何ですので、私が馬を飛ばし、行って参ります」
「頼むぞ。今、安永砦に動かれると対処できん」
「本城の兵を出せば」
「城がからになる。既に留守番兵しか残っておらん」
 田沢家の家老は宇治笠郷に向かった。
 代表に話すと、六人衆を集めると言うが、急ぐので、すぐに集まって欲しいと家老は頼んだ。
 代表はそのように計らった。
 集まった六人衆は、村に持ち帰って検討すると返答。
 村で決まらなければ、兵は出せないらしい。その決定権は代表にはない。各村の代表が六人衆。
 家老は急ぐので、至急に兵を出すように頼んだ。六人衆はそれに従った。
 安永郷の兵は五百と多い。それが砦に入り、臨戦態勢。日和見をしているのだ。田沢家に一応所属していたが、兵を出さないどころか、寝返られると事。その手当の兵がいない。それで至急宇治笠六人衆に来てもらった。
 だが、兵が集まらなかったようで総勢二十人ほど。
 横一列で薄く陣を張る。
 せっかく来てくれたのだが、屁の突っ張りにもならない。
 しかし、安永砦ではそれを見て、ますます動かなくなった。二十ほどの敵だが宇治笠六人衆が来ているのだ。それと戦いたくなかったのだろう。
 おそらく砦から打って出れば宇治笠衆は全滅。しかし、それをやると裏切ったことになる。だが、どちらにつくかはまだ決めかねていた。だから動かない。
 田沢家の家老が安永砦の前で陣を張っている宇治笠兵を見に来た。家老の護衛でついてきた兵の方が多い。
 これでは何ともならないと思いながら引き上げた。
 しかし、田沢家は四方の敵と戦っていたのだが、その一角が収まり、田沢家が有利になった。
 少ない兵士しか出せなかったが屁の突っ張りにはなったようだ。一寸した牽制が効いた。
 
   了


2024年5月27日

 

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