小説 川崎サイト

 

懐かしい夢

 

 島根は夢を見た。もう昔のことで、その頃の平凡な日常が再現されていた。よくある普段の生活の一シーンのようなもの。
 特に変わったところはなく、結構リアルで、荒唐無稽に走ることもなく、そのまま再現されているような感じ。その何もなさが逆に気になる。
 ふっと差し込まれたような挿話。しかし話と言うほどのことではなく、日常での淡々としたやりとり程度。夢が何かを見せるとしても、何が言いたいのかが分からないが、妙に懐かしい。
 昔、そういうこともあったと思うが、そのときは何でもないエピソードなので、何とも思っていなかったはず。
 だが、夢でそれが再現されたとき、かけがえのなさというのを感じた。それは二度と再び繰り返されることのない日常だったため。今はそんな条件ではない。当然だろう。昔と今とでは様変わりしており、人も変わっていく。
 その夢を見たあと、島根はあの時代はあの時代でよかったと、しみじみと思う。それは失われたことで、その続きは今も続いているわけではないため。
 だからそれを今、再現させようとしても役者が揃わない。人もそうだが、島根自身もその時代の島根には戻れない。
 そして今の当たり前のような日常も、かなり経つと、もう別世界のように昔話になるのだろうか。それで次々と全体が動いているので、古ければ古いほど世界が違ってくる。
 ただ、夢の中の島根は、昔の島根ではなく、何となく今の島根に近かった。ただ、これは夢だと思いながら見ていた夢ではないが。
 それは夢だったが、夢ではなくリアルに思い出すこともできる。これは記憶の中にある。あの夢の時代はどんな状態だったのかを少しは思い出せる。
 それを思い出すと、ぐっと昔が近くなる。引き寄せられるように。そして、再現はできないが、何かくっついているように感じられる。もう現実としてはないが、所謂島根の中では生きている。
 そういった昔の思いを常に抱きながら、今を生きているわけではないが、くっついているのだ。
 その昔の記憶にあったシーンは、そこにある。過去にある。それはずっとそのままあるような気がする。今と並行しながら。
 ただ、過去へ行くことはできないし、過去を呼び出すこともできない。そうなると今が狂ってしまうだろう。だからこの世界軸とは別のところだろう。
 そして夢で見た昔のワンシーン。ただの何でもない日常シーン。何も起こっていない。だが、なぜか懐かしい。
 この懐かしさは少し深いところから湧き出ている。ただの懐かしさではなく。
 
   了


2024年5月28日

 

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