小説 川崎サイト

 

不気味な何でもなさ

 

 滝川にとり、その日は何とも言えない日だった。良い日であるわけではなし、そうかといって悪い日でもない。
 だから普通の平凡な日で、その他一般のよくある日に該当するが、そうとも言えない。普通の平凡さとは違う。
 普通の日はそれなりに良いこともあるし、悪いこともある。それらは普通にあることで、少しは起伏がある。変化もある。だから何もないような日ではなく、何かがある日。
 その規模は小さく、刺激的なことも低いので、大したことではなく、ほぼその日のうちで終わるような話。一寸出遅れたので、急ぎ目にやると、遅れを取り戻せるような程度。
 しかし、その日は違う。何かぽかんと空いた穴のような日。何も起こっていないし、起こる気配もないので、平坦な日なのだが、その平らさが逆に妙なのだ。しかし、そんなことはどうでもいいことで、ただの気の問題かもしれない。
 心が空っぽになり、真空状態になったわけではなく、何か妙だという感じがあるので、無心ではない。むしろいつもよりも深く勘ぐる。何だろう、これはと。
 滝川は変な世界に入り込んだのではないかと、一寸心配する。
 変な世界。どんな世界だ。何か回路が違い、いつも繋がっている回路ではないような。
 この回路、繋がりのようなもので、たとえば昨日からの繋がりとか、滝川自身の過去からの繋がりや、先への繋がりのようなもの。その線が外れていたり、妙な線が混ざっているような感じ。
 目の前のことは普段と変わらない。だから妙な世界ではないことは分かっているのだが、徐々に違和感を覚え出す。
 ありふれた日であり、よくある日なのだが、一寸質が違う。だから、いつもの感じではないと言うことだけは分かる。
 滝川自身もいつもと変わらず、その周囲もいつもと変わらない。そしていつもあるようなことが日常的に起こっている。それらは妙なことではない。正常だ。普通の日々の中の一コマ。
 そういう何とも言えないような日、実はいくらでもあったのかもしれない。気付かなかっただけで、実際には常に起こっていたのではないかと。
 しかし、その何でもなさは、何でもないだけに、特に支障が出るようなことではなく、日常が変わるわけでも滝川が変わるわけでもない。
 ただ、そう感じただけの話。
 
   了


2024年5月30日

 

小説 川崎サイト