小説 川崎サイト

 

軽い荷

 

「荷が重いか」
「はい。私には」
「では、少し軽くする」
「一つ減らしいただけるのですね」
「勝たなくてもいい、威嚇するだけでいい。これなら楽だろう。軽くなったはず」
「じゃ、本気で戦わなくてもいいのですね」
「矢を射るだけでいい。迫ってこられたら逃げればいい」
「それでほっとしました」
「一方的に射て、逃げよ」
「敵も射返してきます」
「当たらぬところまですぐに逃げればいい」
「射逃げですね」
「騎馬や槍隊が突っ込んでくるかもしれんが、戦うな。逃げろ」
「では、最初の攻撃だけでいいのですね」
「それ以上欲を出すな。敵が怯んだからといってもな。罠かもしれん。誘われてはならん」
「はい、行ってきます」
「美咲砦にちょっかいを出す。それだけでいい。できれば落としてもらいたいが、荷が重すぎるじゃろ」
「はい」
「それにこちらの被害も大きくなる。だから威嚇だけでいい」
 橋爪は弓隊百を与えられ、美咲砦でそれを実行した。
 砦は柵で囲われ、矢防ぎの板を立てている。
 橋爪の弓隊は、言われたとおり、かなり近づき、矢を一斉に放った。しかし、中の兵には当たらない。
 そして言われたとおり、すぐに逃げ出した。後方を見ると、敵が出てきて矢を射かけている最中。幸い速く逃げたので、届かない。そして騎馬が出てきて、あっという間に近づいた。
 しかし馬が入れないような灌木の多い茂みに逃げ込み、そのあとは蜘蛛の子を散らしたように四散した。目的を果たしたので、もう戻ってもいいのだ。
「どうじゃった」
「命じられた通りにやりました」
「それでいい。軽い荷だったろう」
「はい」
「これで敵は奇襲を本気で警戒するはず」
「じゃ、次は奇襲できませんねえ」
「もう二度と奇襲はせん」
「では、目的は」
「警戒させるだけでいい」
「それが成果ですか」
「軽い荷だ。成果も軽い。仕方なし」
「あ、はい」
 
   了



 


2024年6月13日

 

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