小説 川崎サイト

 

妙な男

川崎ゆきお



「妙な話だとは思わないかい」
「妙な場所へ行くからだよ」
「そうかなあ」
「妙な場所へ行くと妙なことになる。至極当たり前の話じゃないか」
「君は妙な場所へは行かないのかい」
「行かない」
「どうして?」
「用事がないからさ」
「じゃ、妙なことになったことはないの」
「そりゃあるさ」
「その場所はどこ」
「妙な場所になっていた」
「ほら、君も妙な場所へ行ってるじゃないか」
「しばらく行っていない間に妙な場所になっていたのさ。だから、妙な場所へ行ったわけじゃない。あんなことになっていると分かれば行かないさ」
「僕は妙な場所が好きでよく行くんだ」
「元気だなあ」
「妙なことが好きなんだ」
「刺激が欲しいんだね」
「それもある」
「でも巻き込まれて妙なことになると困るだろ」
「うまく、かわすさ」
「そのスリルが好きなんだね」
「そうかも。君はそんな刺激、いらないの」
「必要なら行くけどね」
「刺激を求めるのが目的なら、行く必要があるじゃないか」
「求めていないよ」
「妙な話は役立つぜ。経験にもなる。免疫もできる」
「怖い目に遭うのは嫌だな」
「じゃ、登山なんかしないタイプだね」
「どうしてもその山を越えないといけない事情があれば別だけど。その時はできるだけ険しくない場所を選ぶね」
「臆病なんだ」
「そうだよ」
「話が合わないねえ」
「共感できないから」
「でも僕と会ってるこの事実はどう説明するんだ。僕は妙な男だぜ。君はそれを知った上で会っている」
「同級生じゃないか。妙な関係じゃないだろ。それに君は妙な話をしてくれるので、聞いているだけで十分さ。聞いているだけなら問題はない」
「じゃ、妙な話も好きなんだ」
「話だけならね」
「じゃ、今度また妙な話を聞いてくれよな」
「ああ、いいよ」
「なんだか、君の方が妙な人間に見えてきたよ」
「ははは、そりゃおかしい」
 
   了


2007年01月25日

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