小説 川崎サイト

 

妙手

 

「あまり特殊な、特別な手を使わない方がいいのでは」
「わしの手は特殊か」
「少し変わっています。見るからに」
「妙手というやつでな」
「普通の手を使ってください。そうでないとよく分かりません」
「何がじゃ」
「お力の程が」
「妙な手はわしの力。わしだけがなせる技」
「だから特殊すぎて、よく分からないのです。凄いのかどうかが」
「普通の手か」
「はい、ごくありふれた方法でやってください。そうすれば実力の程が分かります」
「力試しか」
「いえ、どの程度のお方なのかを知りたいのです」
「普通の方法はなあ」
「使えないと?」
「まだ、言っておらん」
「そうなので」
「使えんこともないが、それでは弱い」
「あなたが弱いからではありませんか」
「申すなあ」
「ですから普通の手を一度お見せください。強い弱いは関係はありません。知りたいだけです。どの程度か」
「普通の手は苦手じゃ」
「ですから、一番簡単な方法です。誰でもできそうな」
「それが苦手なのじゃ」
「できないのですか」
「できるが、大したことはない」
「それで結構です」
「大したことはないので、恥ずかしい」
「それで妙手に頼るのですね」
「妙手ではない。それはわしにとって普通なのじゃ。だから普通にやっておる」
「どう見ても普通だとは思えませんが」
「それは妙手だからじゃ。しかし、わしにとっては普通」
「普通がいいと言っているわけではありません。また、普通にやる必要もありません。ただ、普通にやっているところを参考までに見たいのです。そうでないと試験になりません」
「妙手では試験にならぬか」
「反則ですので」
「妙手を反則だと申したな」
「当家で求めているのは普通の使い手です。弱くてもいいのです。それを見せていただけるだけで、結構です。その確認だけをしたいだけなので」
「断る」
「じゃ、不採用と言うことで」
「致し方あるまい」
「お出口は、あちらです」
 
   了




2024年6月18日

 

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