小説 川崎サイト

 

人の動き

 

「少し気になることがあってな。流れが見えてきたようなのだ」
「あ、はい」
「流れと言っても僅かだが、島原に行くものが増えた」
「島原ですか」
「吉田とはライバル。その吉田から島原へ流れるものが最近多い」
「吉田から出たのですか。わざわざ」
「吉田で活躍したものだが、そこまでで、そのあとがない。それ以上の活躍の場がな。それで島原から誘われたのか、自分から島原へ流れたのかは分からぬ。そういう似たようなものは別の所にも流れるのだが、吉田や島原とは別の世界になるので、これは無視していい。以前ならそのコースが多かったのだが、吉田でやっていたようなことをそのままできる島原の方がいいのだろう」
「出て行くものが多いと言うことは吉田の勢いがなくなり始めたのですか」
「そうだな。これという人がいなくなった。多くの人を抱えていたのだが、まあ、エースが出ないのだろう。だからどんぐりの背比べ。似たようなのが並んでいるだけ。その一人をエースにしているだけ。実際には弱いもので、エースではない。それにエースと言えるものもいるが、どういうわけか、進展がない。止まっているというより後退した。勢いがな」
「そういえば急に大人しくなりましたね」
「あのまま進んでいけばエースになれただろうに、惜しい。吉田の方針かどうかは分からんが、残念だ」
「では島原の方が今は勢いがあると」
「いろいろと試みておる。新しさがある。従来からあるものを繰り返しているだけの吉田に比べればな」
「そうですねえ。吉田は以前よりも全体的に落ちてきましたね。従来以前に」
「ところが島原は後退しないで、前へ前へと出ている。かなりきわどいほどにな。これは吉田にはできないこと。吉田もきわどいところまで一時行ったのだが、その線は消えた。だから後退したように見られている」
「それで島原へ流れるものが吉田からも出ているのですね」
「吉田と島原はライバルだ。だからライバルへ行くなどは以前には滅多になかった。今は堂々とその流れができておる。また一人、また一人とな」
「きっと吉田で冷遇されたのでは」
「そうかもしれん。吉田は育てる気がないのだが、新たに人は入ってくるので、人には困らん。だからある程度活躍したものは切り捨てたいのだろう」
「それを島原が受け入れたと」
「まだまだ活躍できるのに、切り捨てられては中途半端。活躍の場をいくらでも提供してくれる島原へ行くのは当然かもしれん」
「島原の魅力は何でしょう」
「吉田ではきないことを島原ではやっている。島原でないと、これはできない」
「じゃ、島原の天下じゃないですか」
「しかし島原は下品。吉田は上品。この差で吉田は保っているようなもの」
「しかし、どういう事情で吉田から島原へ行くのかは実際のところ分かりませんねえ」
「あくまでも憶測。ただ、最近その数が多い。そして吉田にいた頃よりも、島原に移ってからの方が良くなっている。生き生きとな」
「じゃ、吉田は危ないですねえ」
「吉田から出て行くものは多い。島原以外にもな。今の吉田では長く居続けれんからだろう」
「分析ありがとうございます」
「内情は知らん。ただ、人の動きで、そうではないかというただの推測。当てにはならんぞ」
「あ、はい」
 
   了




2024年6月21日

 

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