小説 川崎サイト

 

表裏の際

 

「変化があった」
「おお、それはどのような」
「妙なものを見た」
「妖怪変化でも見られるようになりましたか」
「そうではない。従来からその手のものがあることは知っていたが、それは闇の世界。表の世界ではない。従って無視していた。しかし、気になってはいた」
「変化とはそのことですか。それなら以前からあったことでしょ」
「昔からあったかもしれんが、最近目立つようになった。だから目につきやすい」
「その闇の世界が無視できなくなったと」
「表の世界にあるものがそのまま闇の世界に持ち込まれており、表よりもその裏の方がより表らしい」
「闇の方が表らしいとはどういうことでしょ」
「本来表で扱うものが裏に多くあり、表を越えておる。表のお株を奪ったようなものだ。これは無視できん」
「表の偽物でしょ」
「いや表の方が偽物に見えてしまうほど、本物に近い。いや、裏の方にこそ本物があるような感じだ」
「そこまで変化しましたか」
「表は後退しているが、裏は活気がある。裏の、つまり闇の世界の方が強くなっている。これは見過ごせない事実」
「しかし、裏は所詮は裏」
「だが、表と言っているだけで裏と言っているだけで、同じものなのだ」
「何を見られたのかは知りませんが、そういう変化があるのですね」
「最近ますます顕著。これなら表の必要ないほど。だが闇の世界なのでな。だが闇の世界だからできること。そして今では表側になりかけている」
「それは無理でしょ」
「実際はもうそうなっているのに近い」
「そこまで闇の世界が押し寄せてきましたか」
「表の世界にひけを取らん。それを越えておるほど。逆転だ」
「表側が巻き返す方法はないのですか」
「それをやっているところもある。裏と同じ事を表でもやっておる」
「じゃ、やはり逆転したのですね。もう既に」
「だが、あくまでも表の世界なので、その範囲内だが、どう見てもそれは裏と同じだったりする」
「では逆転はあり得ないと」
「裏も表も実際にはない」
「ありますが」
「その境界線、その際沿いが興味深い」
「その変化、続きますか」
「表裏逆転はしないだろうが、共存するだろう」
「勉強になりました」
「うむ」
 
   了



2024年6月24日

 

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