小説 川崎サイト

 

おめでたき人

 

「先日一寸良いことがあってな。そういうことが続くかと思い、探し出した」
「何か拾いものをされましたか」
「そういうのもあるが、それは何かを探しているときに拾ったもの。だからじっとしていたのでは拾えるものも拾えん」
「やはり探しに出ないといけませんか」
「いや、魚籠のように仕掛けておればかかることもある。こちらの方が楽なので、いいのだがな。しかし、仕掛け通りの魚しか入っては来ない。たまに妙なのが入っていることもあるが」
「探す方が効率がいいのですか」
「今すぐ欲しいときにな。先日それでいいことがあった。探したおかげだ。それでまた探そうと思い立った。こちらの方が積極的で、狙いを絞れるし、効率はいいが、ないものはいくら探してもないので、徒労に終わることも多い。ここが損だな」
「良いことは探しに行かないと手に入らないものですか」
「先ほど言った罠にかかる場合も多いので、わざわざ探しに行く必要はないがな」
「ではどうして探しに」
「探すのが楽しいからだ」
「見つけられなくても、探しているだけで?」
「探しても見つからないものは探しには行かんが、ありそうなものなら探せば見つかるかもしれん」
「その区別は」
「え、何の区別だ」
「だから、探してもないものと、あるかもしれないものとの線引きです」
「それは曖昧だ。毎日探していても駄目だが、かなり間が開くと、ある可能性も高い。その程度の判断だ。だが期間が長ければあるとはかぎらん」
「いいですねえ。楽しみで探しに行ける余裕は」
「楽しみたいと思っているだけのこと。余裕ではない」
「でも時間がかかるでしょ」
「これは好きでやっているので、時間は気にしない。そういうことで時を過ごしているだけで十分」
「私も見習いたいです。楽しそうなので」
「探し方のコツを覚えるのも楽しいぞ」
「じゃ、全部楽しいのですね」
「おめでたい人じゃ」
「それはめでたい」
「目は出ておらんがな」
「あ、はい」
 
   了




2024年6月25日

 

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