小説 川崎サイト

 

人間疲労

川崎ゆきお



「消耗しましたなあ」
「無駄に終わりました」
「そうだなあ」
「でもこれも経験です」
「盛り下がったねえ」
「こういう場を踏むのも大事かと」
「時間の無駄たったねえ」
「無駄でも、この無駄が、僕には必要な無駄たったのかもしれません」
「まあ、無駄はつきものだからね。知らないうちに無駄なことをやってるものだよ」
「この無駄を生かしたいです」
「リスクはリスクだよ」
「マイナスをプラスに変換させます」
「元気だねえ。若いからねえ。年をとるとねえ、ダメージがたまるんだよ。金属疲労のようなものかなシステム疲労だ」
「それはプラスに生かせませんか」
「ああ、まあ無駄に終わり、ダメージが残ることを避けようとするね」
「守りに入るわけですか」
「自分のことは自分で守らないとね、潰されてしまいますよ」
「僕はいろいろな経験をし、今後の参考にしたいと思います」
「ああ、君には今後があるからねえ」
「先輩もまだあるじゃありませんか」
「私もいろいろ経験をしてきたよ。でもねえ。しなくてもいいような経験もした。それは君の言うように蓄積にはならず、減るだけでね。まあ、臆病になってしまった」
「そうなんですか」
「狡くなったと言ってもいいねえ」
「それは経験から得た知恵ですね」
「そんなもの、知恵じゃない。底下げさ」
「盛り下げで、底下げですか」
「ダメージは残るんだよ。だからつまらん経験はしないことだ」
「でも、必要な経験はあるでしょ」
「そりゃあるさ。でないと仕事ができないからね」
「じゃ、どんな経験がまずいのですか」
「今日のような経験だよ」
「避けることができませんでしたねえ。僕らの手が悪かったのでしょうか」
「だから、そういうことは、どんなに用心していてもついてまわることなんだ。避け用がない」
「そうですね。僕たちが悪いんじゃないですよね」
「まあ、上手に忘れることだな。なかったことにして、経験として記憶しないことだ」
「はい、忘れましょう」
 
   了


2007年01月30日

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