物語り
川崎ゆきお
「語っていることが物語りになってしまうと面白くないねえ。古典落語を聞くような感じだ」
「古典落語、面白いじゃないですか」
「聞くかね」
「あまり聞きません」
「じゃ、面白いもなにもないじゃないか」
「でも、嫌じゃありませんよ。聞くのは」
「面白いと思って聞くわけじゃないだろ」
「聞いてると面白いです」
「どこが」
「落語の雰囲気ですよ」
「話が面白いわけじゃないんだ」
「時代劇ですからねえ」
「物語りは嫌いかい」
「嫌いじゃないですよ」
「特に好きでもないか」
「はい」
「どうしてかな?」
「聞いているだけですから」
「じゃ、演じたいわけか」
「物語の人物にはなりたくないです」
「俳優になれとは言っとらん」
「はい」
「自分の物語りに夢中なんだね」
「そんな物語りなんてありませんよ。現実は物語じゃないでしょ」
「それが物語りになるんだ。過去を振り返ればね」
「つまり、自分史ですか」
「歴史は物語だ」
「それは後で誰かがまとめたのでしょ」
「そうだ」
「じゃ、自分史は誰がまとめるのです」
「自分でだ。それが物語となる」
「思い出すことはありますが、物語のようには整理していません」
「だが、昔のエピソードを語る時、物語風に話すだろ」
「はい、多少は。でも面白いネタじゃないと、駄目ですねえ」
「そうだろ。物語が面白くないのはそのためだ」
「ネタの問題ですか」
「面白く作ってしまうからじゃ」
「多少は演出を加えますよ」
「まあ、知っておるんのは、本人だけなんで、聞くだけだからな」
「じゃ、物語ではない面白い話がいいのですか?」
「語ると物語りになってしまう」
「でも、物語として聞いてませんよ。話として聞いています」
「面白く聞かせるのは難しい」
「そうですねえ。芸が必要です。話のうまい人の話は、何となく聞き入ってしまいます」
「話芸の問題だな」
「そうです」
「それは作品なんだ。創作物だよ」
「じゃ、やはり物語りは面白いのですね」
「面白く聞かせようとするところが面白くない」
「疲れましたので、本日はこれで」
了
2008年02月15日