小説 川崎サイト

 

大成

川崎ゆきお



 勝った高橋は不満げで、負けた山口は満足げだった。
 高橋は勝って当然の山口に勝った。
 山口は負けて当然の高橋に負けた。
 力の差は最初から明快だ。
 高橋が不満なのは、簡単に勝てなかったことだ。山口に粘られたのだ。
 力の差があるため、山口の反撃はなかった。
 そのため高橋にはダメージはないはずだ。
 だが、勝って誇れる話ではない。自慢にもならない。
 一方山口は自慢できた。あの強い高橋をてこずらせたのだ。
 山口の作戦は防御のみに徹することだった。決して守り切れるものではないが、無駄な挑み方をしなかった。
 いくら山口が弱いとはいえ、守りだけに集中すれば、相手も簡単には倒せない。
 その意味で山口は勝負しなかったと言える。
 負けることは最初から分かっていたので、万が一にかけることもしなかった。
 山口は負ける運命にあり、高橋かは勝つ運命だった。
 高橋は山口の罠にはまったのだが、罠と言えるほどのものではない。小細工を弄してきても、問題なく勝てる相手なのだ。
 そして高橋は当たり前のように勝てた。それなのに不満が残った。
 この不満は、てこずっているように見られたためだ。
 勝って喜べないのは、山口を簡単に崩せなかったためだ。
 高橋は山口の狙いが最初からそこにあるのではないかと疑った。
 負けた山口はダメージ受けたが、それを覚悟で挑んだ。
 そして勝った高橋は精神的ダメージを受けた。
 山口の狙いが当たったわけだ。
 完勝したはずの高橋が不満を覚え、完敗した山口が満足を得ている。
 山口は負けたため、その業界から撤退した。
 高橋はその後も連勝が続いたが、山口のような挑み方をする相手はその後いない。
 そして業界で大成した高橋が引退する時、今まで一番の強敵を聞かれた。
 高橋は山口の名を上げた。
 山口は高橋の強敵だった人間として復活した。
 その後、山口に挑もうとする人間はいない。
 山口は大成し、業界のボスになった。
 と、言う話は聞かない。
 
   了



2008年02月16日

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