小説 川崎サイト

 

冬のソナタ

川崎ゆきお



「寒いし天気も悪いと閉鎖的になりますなあ」
 雪雲が空を低くしている。
「そうですねえ」
「閉じこもりたくなりますよ」
「でも、こうして毎朝この店に来ているわけでしょ」
「ここは外じゃなく、内ですよ」
「そうですねえ。外出というほどのものじゃないですねえ。私なんて徒歩三分ですよ」
「僕は車で二分だよ」
「それなら歩かれてはどうですか。運動にもなるし」
「車で二分は歩けばかなりありますよ」
「そうですねえ」
「それに部屋と部屋を車という部屋で移動する感じがいいのですよ。だからあまり外に出た感じじゃないですなあ」
「この店の客もいつもの人たちですしね」
「そうそう。だからここはまだ内のうちなんだな」
「ああ、なるほど」
 雪が降り出した。
「これは積もりませんなあ。底冷えしておらんから、どんどん解けてゆく」
「ところで、最近どこかへ行きましたか」
「出かけておらんなあ」
「車ならどこへでも行けて便利でしょ」
「行く場所がないんだな」
「私はもう車は売りましたよ。乗らなくなりましたから」
「僕は車そのものが好きだからね、次のを探しておるのですよ」
「でも、家から二分の喫茶店にしか行かないのでしょ」
「遠出せんと決めたわけじゃない。そういう機会も想定しておる」
「車が好きなんですね」
「まあ、そういうことだな。ところであなたは最近どこかへ行きましたかな」
「医者通い程度です」
「ゴルフとかなさってませんでしたか?」
「それは接待ですよ。ゴルフも釣りも接待です。私の趣味じゃないです。だから、退社してからは行ってませんなあ」
「そうですなあ。仕事絡みですなあ」
「ええ、一人で出掛けて楽しめるようなものはないでしょうかね」
「金さえ出せばいくらでもありますよ」
「いや、貯金をが減っていくのが不安で、それじゃあ安心して楽しめません」
「僕もいろいろやってみたんだけど、長続きしませんなあ」
「いや、こうして雑談できるだけで、十分かもしれませんよ」
「同感です」
 
   了


2008年02月23日

小説 川崎サイト