小説 川崎サイト

 

影響

川崎ゆきお



 ある時期、何かの影響下に入ることがある。
 何かの雰囲気が憑依したような感じとなるのだ。
 その何かとは本人はよく知っている。
 だが、その影響は長くは続かない。別の何かと取り替わるためだ。
 替えているのは本人だ。これは意識的で、自然にそうなったのではない。
「まあ、タマネギのようなものだからね。自分なんて。全部むいてしまうとなくなってしまう」
「でも影響を受け入れるのは、何が原因でしょうねえ。他の人はその影響を受けない場合もあるでしょ」
「今の皮が呼び込むのだろうね」
「今より快適な皮を求めるわけでしょうか」
「そうかもしれないねえ」
「それを感知するのは誰なんでしょう?」
「皮かもしれないねえ」
「皮が皮を求めるわけですか」
「皮は履歴だよ。これまでの」
「木の年輪は、全部違うでしょ」
「そうだね。指紋のようにね」
「指紋は変わらないでしょ」
「そうだったか」
「木の年輪は、環境で変化するでしょ」
「成長の履歴かな。寒い年や晴れの少ない年や、周囲の植物との関係でも変化するかもしれないねえ」
「ええ、だからどの木も世界で一本しかない木です」
「人間の意識もそんな自然の摂理で動いていれば分かりやすいのだがね」
「木にも意志があるかもしれませんよ」
「石にはないだろ」
「人間が思っているような意識とは違うものが作動しているかもしれませんよ」
「まあ、あまり目立たないがね」
「ところで、今はどんな影響を受けています?」
「木と変わらないかもしれんなあ。立っているだけで一杯だよ」
「その影響はどこで受けました?」
「これはねえ、珍しく外からではなく、内側からなんだ」
「内面の声を聞いたわけですね」
「声は聞こえんがね」
「分かってますよ」
「誰の影響も受けておらんのだよ」
「今までに蓄積した影響が、ものをいってるとか?」
「そうだね。そしてこの心情を代弁してくれるような人間の影響を受けたいと思い、探しているのだがね」
「やはり、外からの影響が必要でしょうか」
「そのほうが納得しやすいからね」
「ああなるほど」
 
   了


2008年02月25日

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